12年前の本誌の指摘
このような有様は、今に始まったことではない。私は2006年9月11日の奥付で、それまで5年間に書き綴ってきた9・11以降のアフガン・イラク両戦争についての論考の主なものを再録して『滅びゆくアメリカ帝国』(にんげん出版)を上梓し、その終章で、
イラクの決着がどうであれ、我々が目撃しているのは、米国が世界史上最強の軍事・経済帝国として絶頂を極めた(かに思われた)その瞬間に、崩壊への予兆に囲まれて立ちすくむという、まさに絵に描いたような弁証法的な展開である。
と述べ、さらにエマニエル・トッド『帝国以後』から次の部分を引用した(P.251~253)。
つい最近まで国際秩序の要因であった米国は、ますます明瞭に秩序破壊の要因となりつつある。イラク戦争突入と世界平和の破棄はこの観点からすると決定的段階である。……〔イラクという〕弱者を攻撃するというのは、自分の強さを人に納得させる良い手とは言えない。戦略的に取るに足らない敵を攻撃することによって、米国は己が相変わらず世界にとって欠かすことのできない強国であると主張しているのだが、しかし世界はそのような米国を必要としない。軍国主義的で、せわしなく動き回り、定見もなく、不安に駆られ、己の国内の混乱を世界中に投影する、そんな米国は。
ところが米国は世界なしではやっていけなくなっている。……米国はもはや財政的に言って世界規模の栄光の乞食にすぎず、対外政策のための経済的・財政的手段を持たないのである。経済制裁や金融フロー中断の脅しは、もちろん世界経済にとって破滅的にはちがいないが、それでまず最初に打撃を受けるのは、あらゆる種類の供給について世界に依存している米国自身なのだ。アメリカ・システムが段階を追って崩壊していくのはそのためである。
これが12年前にすでに起きていたことであり、トランプが出てきたから急に米国がおかしくなったということではないのである。