新しい国際秩序への模索
もちろん米国には昔も今も、正気の政策立案者たちがいる。上掲の拙著ではさらに、CIAなど米政府の情報機関が結集した国家情報評議会(NIC)が04年12月に出した「2020年の世界」と題した近未来予想の報告書が、「米国は2020年においても最も重要な単独の大国に留まるであろうけれども、その相対的なパワーは徐々に衰えていくのを自覚することになろう」と述べているのを紹介した(P.257)。
この言い方はなかなか絶妙で、米国は十分に「大国」ではあるだろうが、もはや屹立する「超大国」ではありえず、次第に他の大国と肩を並べるワンノブゼムに近づいて行くという自覚が控え目ながら表白されていて、その時に想定された「2020年」が目の前に近づいているのである。
この手の近未来予測は米シンクタンクの定番もので、ごく最近ではペンタゴン直属のランド・コーポレーションが6月25日付のマイケル・マザールの論説「我々には新しい国際秩序が必要だ。その理由がここにある」をウェブに載せた。
米国絶対の戦後国際秩序が役立たない以上、米国はワンノブゼムになっていくという現実を心静かに受け入れて、進んで多国間の協調による世界的な問題の解決に貢献するのでなければならない。ところがそのことが理解できないトランプやその取り巻き、そして支持者がいてどうにもならないので、マザールはまず、2050年に否応なく訪れてくる世界構造を分かり易いグラフに表現して説得しようとしている。
図1は、2016年の世界経済の景色で、丸の大きさは購買力平価で表したGDPで、その下の小さな数字は米ドルで表した1人当たりGDPである。購買力平価ではすでに中国が世界トップで、日本はインドに抜かれて4位である。
図2は、2050年予測で、中国とインドが圧倒的に1~2位を占め米国は3位、日本はメキシコにも抜かれて8位である。下の風船の紐のような糸は、「米国の西側同盟国」は右端の4つしかいないことを示している。図が見にくければ、オリジナルをご覧下さい。
● We Need a New International Order. Here’s Why
ところで、このように中国とインドが世界最大を競い、その両国を合わせると世界GDPの半分を遥かに凌駕するというのは、実は世界史の“常態”である。図3は、これまでも何度かお目にかけているが、マディソンの有名な世界GDP変遷図で、これを見ると、紀元前後から18世紀半ばまでは中国とインドを合わせると世界経済の6~7割を占めている。
A History of Balance of Power Sources – GDP data for years 1-2000: Angus Maddison, University of Groningen; 2016 IMF Projected GDP Growth; 2050 PricewaterhouseCoopers Projected GDP Growth
インドでは東インド会社、中国では阿片戦争以後、欧米帝国主義の侵略・簒奪によってしばらくは酷い目に遭ったけれども、2世紀を経た2050年頃には世界史の元々の姿が復元されるだろうというのが中国やインドの歴史意識で、それを米国はどうしても理解出来ずに悶々とするのである。
その米国にオロオロしながら付いて行こうとしているのが日本で、これはもう救いようがない。
image by: a katz / Shutterstock.com
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2018年7月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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