日本は今後どうなる。サウジ記者殺害の余波がもたらす世界恐慌

 

サウジの動向

サウジアラビアのトルコ総領事館で、サウジの反政府記者ジャマル・カショギ氏が殺害された。カショギ氏は、アップルウオッチを装着して大使館に入り、殺害時の音を録音していた。このため、当初殺害を否定していたサウジ当局は、同氏に取り調べを行ったところ誤って死亡させたという見解に変更し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は関係していないとした。

しかし、米国議会やペンス副大統領は、サウジの関与が明らかになり次第、サウジに対して制裁を行うという。トランプ大統領は、当初制裁をほのめかしたが、その後、サウジとの関係を維持する方向に方向転換した。

しかし、サルマン皇太子の護衛部隊が殺害に関与していることで、サルマン皇太子が指示した可能性があり、擁護できなくなっている。サルマン皇太子の失脚も想定できる事態になった。

このことで、サウジで開催する「砂漠のダボス会議」とも言われる国際会議には既に民間企業関係者たちが相次いで欠席を表明していたが、とうとうムニューシン財務長官も欠席することになった。米国のサウジ制裁が起きるとNY株価も下落した。

もし、サルマン皇太子が健在のまま米国がサウジに制裁するなら、それに対してサウジ政府は、制裁には対抗処置を取ると発言している。石油を政治的武器化してくる可能性が出てきて、石油価格が上昇するはずが、まだ大きく上昇はしていない。

しかし、今後、この石油供給不足と相まって、バブル時最後に上がる石油などコモディティ価格が上昇する可能性がある。

もう1つ、大きな問題は、ドル基軸通貨の崩壊になる可能性で、サウジはドルでしか原油を売らないことで、ドル基軸通貨制度を維持して、米国との関係を緊密して、独裁王制を維持していた。

この関係が崩れることは、米国にとっては、ドル基軸通貨体制崩壊になり、サウジによっては王政の体制保証が無くなることになる。

もう1つ中東情勢を考え上で重要なことが、イスラエルの味方が近傍にいなくなることだ。シーア派イランに対抗するサウジとイスラエルは友好的な関係を維持しているが、米国とサウジが離れると、当然サウジはロシアと中国に接近して、イスラエルから離れることになり、中東地域のパワーバランスが崩れることになる。このことは、味方のいないイスラエルの崩壊に近づくことになる。イランは喜んでいるはず。

日本や世界への影響

また、もしイラン制裁でイラン原油を止めている上に、サウジの原油も供給されないと、世界的な原油不足が起き原油高騰で世界的なインフレが起きることになる。

特に影響の大きい日本は、原油価格高騰で、経常収支の大幅な赤字になり、かつ石油に起因するインフレが起きて、そのことで円安になり、より一層の円安インフレが起きることになる。

そして、2%以上のインフレが起きると、量的緩和を止め利上げを行うなどのインフレ防止の金融引き締め政策が必要になり、金融緩和をしなければならない景気悪化時に逆の政策となり、景気悪化の速度を早めることになる。これによりスタグフレーションになる。

このように、日本の脆弱なポントが出てしまいかねない事態になっている。量的緩和継続が日本の大きな問題点になってきたように感じる。

そして、原油価格の上昇は、新興国経済に大きな打撃になる。このことで、世界全体の景気が悪化することも考えられる。米中貿易戦争の上に、原油価格の上昇となると、世界の景気後退が明確化して株価の暴落を引き起こすことにもなる。当然、この面でも日本は影響される

対策としては、欧州のドル以外の国際通貨決済システムを利用して、日本も原油不足にならないように、イラン原油を買い続けることである。しかし、これは、ボルトン補佐官が推進する米国のイラン政策を無視することになるので、米国から仕返しを受ける可能性もあるが、日本としては次善の策を取るしかない。

この件では、官邸内でケリー主席補佐官とボルトン補佐官の対立が起きているようである。サウジを取るか両方ともに捨てるか米国の政策は、米国の岐路と同時に世界の岐路も決定しかねない。

print
いま読まれてます

  • 日本は今後どうなる。サウジ記者殺害の余波がもたらす世界恐慌
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け