池田教授「将来、魚の活き造りは食べられなくなるかもしれない」

 

畜産業の常識が漁業に及ぶ可能性も

ヴィクトリア・ブレイスウェイトは『魚は痛みを感じるか?』(紀伊國屋書店 2012)と題する著書の中で、魚は痛みを感じているに違いないと断じている。その根拠は次のようなものだ。

マスの皮下に少量の酢を注射すると、注意力が散漫になり、正常な状態では回避するはずの見慣れぬ物体を恐れなくなる。このマスに鎮痛剤として知られるモルヒネを投与すると、マスは見慣れぬ物体を回避するようになる。ブレイスウェイトは、酢の注入によって痛みを感じて注意力が散漫になっていたマスが、モルヒネによって痛みを感じなくなり、注意力が戻るのではないか、と推論している。私見によれば、マスが我々と同じタイプの痛みというクオリアを感じているかどうかは定かでないにしても、クオリアのタイプは違っても「痛み」と呼べるような感じを抱くらしいことは確かなように思われる。

もし、魚が痛みを感じているとすると、釣り針で魚を痛めつけることや、魚を殺して食べる時に長時間苦痛を与えることには倫理的な問題が発生するというのがブレイスウェイトの主張である。牛や豚はなるべく苦痛を与えない方法で屠殺するのが、畜産業の常識になって久しいが、この傾向が漁業に及ぶかどうか、微妙な問題だね。

image by: shutterstock.com

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