池田教授の懸念。AI活用の広がりが、社会的格差を固定化する理由

 

売り上げを左右する因子はものすごく沢山あるので、どの因子にどれだけの重みづけをするかで、売り上げは異なってくるだろう。平日と休日の品ぞろえを変えたり、天気予報によって変えたり、試行錯誤しながらアルゴリズムは進歩していくに違いない。

AIはある因子と売り上げの相関を調べ、アルゴリズムに組み込むだろうが、相関は因果関係ではないので、過去のデータから見たらそうなりそうだという話に過ぎないわけで、根本的な状況が変われば、話は全く違ってきてしまう。これはAIで未来予測をするときに注意しなければならない重要な問題となる。

過去のビッグデータを統計解析する能力において、AIは生身の人間の能力を超えてしまったため、将棋では最高峰のプロもAIに勝てなくなってきた。野球では、例えば個々のバッターの過去のデータを分析し、守備陣の位置をバッターごとに変えることが普通に行われるようになってきた。

あるいは、ある状況でバンドをすべきか打たせるべきかの判断までAIが行えるようになってきた。7回表の攻撃で現在2点差で負けているとか、ピッチャーとバッターの過去の相性とかのデータを分析して最適と思われる選択を決定するわけだ。

野球はもちろんのこと将棋も今のところ決定論的なゲームではないので、常勝のアルゴリズムは存在しないが(ゲーム理論によれば有限回のやり取りで勝負が決するゲームは先手か後手のどちらかが必勝あるいは引き分けということなので、もし将棋がこの範疇のゲームであれば、最善のアルゴリズムが存在することになるが、将棋は千日手があるので有限ゲームではない)、過去のビッグデータの統計処理技術が進歩すれば、勝率を上げられるという点ではよく似ている。

但し、将棋ではある局面で指される同一の指し手は、AIを含めて誰が指しても同一の価値を持つが、野球ではAIが強打せよ、あるいはバンドをせよと命じても、やってみないことには結果が分からないので、偶有性の度合いはより強いという差がある。いずれにせよ、これらのゲームではアルゴリズムの良し悪しは勝負の結果により判定されるので、一番良い結果を出すアルゴリズムの信頼性は高いということになる。

先のスーパーの品ぞろえを決定するアルゴリズムや、アマゾンが顧客の購買リストを分析して、購買意欲をそそる商品の宣伝文を送り付けるアルゴリズムも結果により判定される点では同じである。これは、AIの使い方としては至極真っ当であると言える。ところがそうではない場合があるのだ。

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