思うにそれは、研究の世界こそが「未来の世界」であると誰もが信じているからではないだろうか。つまり、DNAに携わる研究者たちが今いる世界が30年後の自分たちのいる世界であろうことを誰もが半ば直感的に分かっているのである。言わば「未来世界」への希求である。つまらない表現をすれば「未来世界」への投資である。
思えば「人間とは何か?」という、ある種哲学的な問いに遠慮会釈なく(自然科学特有の冷徹さを以て)答えを突きつけたのがDNAである。
少し想像するだけでも、その研究成果は医学、生理学、分子生物学といった自然科学分野を軽く飛び越え、社会科学ひいては人文科学分野にまで影響を与えるような気がして来る。半分冗談だが、近い将来「DNA文学」とか「ゲノム芸術」といった言葉が生まれるかもしれない。
しかしながら、ヒトのDNAに関してこれほど(解析費用が10万分の1になるほど)までにリアルな「未来世界」を想像する人間というのはやはり面白い。どうやら人間は思っているよりもずっと人間を知りたいようである。
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