下がり続けてきたパソコンの価格が、ここ数年はようやく下げ止まりの気配となっているのは、世の中に一通りパソコンが行き渡ったことを意味すると、メルマガ『8人ばなし』の著者・山崎勝義さんは分析します。そして、同じくこの20年の間に100億円だったものが10万円強にまで値下がりした「DNA解析」について、普通の人にとって欠かせないサービスでもないものが、ここまで価格を下げた理由を想像し、人間の面白さを再確認しています。
PCの価格とDNA解析のこと
ここ20年で民生用のPCは随分と安くなった。自分の記憶を辿る限り、初めて買ったPCはWindows98搭載のソニー・バイオで25万円くらいしたと思う。今、同じ額を出せばおそらくワークステーションクラスのものが買える。また、現在最も安いものだと2、3万円台、それでもスペックは20年前の25万円ものを遙かに凌ぐ。
勿論、こういった比較はそれなりに慎重な態度で臨まなければならないが一消費者感覚で言えば、ハイクラスで半額、ミドルクラスで1/3、エントリークラスだと1/5といったところである。
ただその価格もここ数年においては下げ止まりの感があり、いくら何でも数千円のPCが売り出されるとは思えない。PC市場における一元的成長・拡大の時期は終わったのである。つまり、一通り行き渡ったということである。
この現象を如何にも素人っぽくざっくり言うと、誰もが欲しいと思っている間は開発・価格競争の激化によりスペックはどんどん上がる一方、価格はどんどん安くなる。そして、それが誰にとっても当たり前のものとなるとスペックも価格も落ち着いてくる、という感じであろう。
逆に言えば、価格の下降曲線が急であればあるほど需要、というよりその熱量を加味して言うなら希求度が高いということだ。
さて、この20年ばかりで恐るべき価格の下降を見せるサービスがある。DNA解析である。人間一人のDNA解析の価格は2001年で日本円にして約100億であった。それが現在は約10万円強でできる。実に10万分の1である。
歴史上、僅か20年足らずの間にこれほど極端に価格の下がったものは他にない。それは言ってみれば、かつて100億円で買ったものが20年で10万円になってしまうようなものである。少しリアルに考えただけでもパニックものである。
しかもさほどの需要が民生レベルである訳でもない。PCを買うのと同じ感覚でDNA解析を受ける、というほどには一般化していないことは明らかである。その需要があるのは刑事捜査や親子鑑定といったものを除けば、もっぱら研究という世界においてである。
しかし、研究の世界というのは閉じた市場である。開いた市場であっても10万分の1という価格破壊はあり得ないのにどうして閉じた市場でこれが実現したのだろうか。