国際交渉人が読み解く。トルコが主役の“中東シャッフル”SHOW

 

このところ、アサド政権軍が勢いを取り戻し、この北東部を除いては、国内を制圧していることから、この北東部を混乱に紛れて取り戻すことで、長年悩まされてきた“内戦”に、やっと実質的な終止符を打つことができるという現実を見れば、今回のシリア政府軍の北東部への進軍の真の目的が、トルコへの単なる抗議と牽制でないことは明らかでしょう。

ゆえに、表向きは、トルコ軍と対峙しているように見せかけつつ、実際には、エルドアン大統領とアサド大統領は入念に打ち合わせをしたうえで、今回の行動に臨んでいることがわかります。シリアは、内戦の終結とアサド政権の支配の確保が可能になり、トルコにとっては、クルド人に打撃を与えられるとともに、国内に数百万人滞在するとされるシリア難民を“帰国”させる好機になっています。

両国の利害が一致している今回の事態では、シリアとトルコの両国軍が正面からぶつかることはまずありえません。ゆえに、外交・安全保障上、人為的に作られたtensionと呼ぶことができるでしょう。

同じコンテクストで、イランもアサド大統領とエルドアン大統領の目論見に全面的に賛成しています。イランも国内のクルド人勢力が、治安上の不安定要因となっているとの理解で、その排除が長年の“夢”です。今回、直接的な派兵はないでしょうが、確実に今回のトルコ・シリア作のドラマに支援を惜しまない様子です。

その後ろで決定的な影響力を強めているのがロシアです。中東地域への足掛かりに定めているシリアにおいて、「トルコがシリア北東部に侵入してくることは遺憾である」とのコメントを出していますが、今回のエルドアン大統領のトルコによる侵攻については、事前に、かなり入念にロシアとの打ち合わせと方針の確認が行われた模様です。

つまり、ロシアとしても、外交ルート上は、非難し、そして懸念を表明していますが、実際には、おそらく今回の事態の指揮者的な役割を果たしているものと思われます。その証拠といっていいかわかりませんが、シリア政府軍内、そしてトルコ国軍内にも、ロシア軍のアドバイザーが帯同していて、一挙手一投足をorchestrateしているとの情報もあります。ゆえに、中東地域におけるロシアのプレゼンスの急激な高まりが明らかになってきています。

そして、アメリカには不本意でしょうが、そのロシアの思惑を側面からサポートしている様子なのが、なんとモハメッド・ビンサルマン皇太子のサウジアラビアのようです。イエメンのフーシー派他によるサウジアラビア東部の原油関連施設への同時テロ攻撃以降、アメリカ製の防衛システムへの信頼性が失われた結果、ビンサルマン皇太子のロシアへの傾倒が目立つようになってきています。実質的には現在仲たがいしていますが、まるでトルコのエルドアン大統領が選択している米ロ両天秤戦略に類似しているように思われます。

この動きを止めるためかどうかは分かりませんが、一旦は切り離しを画策したサウジアラビアに、トランプ政権は増派するという場当たり的な対応をとっています。私個人の感覚では、残念ながら、トランプ政権の対応は遅きに失した感が否めず、確実にサウジアラビアのアメリカ離れとロシアへの接近という流れは止めることができないように考えます。

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