E社社長 「うーーん。そんな大金払ったら、中小企業は倒産してしまうよ。そういう保険はないんですか?」
E社担当 「いえ、社長、保険は入ってますよ。セクハラとかパワハラとかに対応している保険です」
E社社長 「そうかい、そういう保険があって、うちはそれには入っているんだね」
所長 「でもその保険はパワハラとして認定された場合のみ該当する保険ではないでしょうか?このケースはパワハラとは認定されずに、安全配慮義務違反です。そこまで網羅してくれる保険にご加入なのか一度ご確認くださいね」
E社社長 「あちゃー、そういえばそうだね」
所長 「本判決から学ぶべきことはいくつかあります。男性はハラスメント相談窓口があるのは知っていても、そこに訴えることはしていませんでした。親しい同僚には打ち明け、外部通報や告発を検討したが結局はそれも行いませんでした。しかし、同僚からは男性が死にたいと言っていることをB、C、Dに知らせています。ところが、Bらは真剣に受け止めず、聞き流していたのです。Dは男性が痩せて疲れているという印象を受けており、体調不良が気に掛かっていたとも言っています。今回のポイントは、相談窓口を利用していなかったとしても、会社側で、男性の体調不良等の原因がBらの叱責にあったことを認識しうる以上、対応しないことは許されないと判断された点です。相談を理由に不利益な取扱いを受けることや、加害者に知られ報復されることなどを恐れ、相談というアクションが起こせない場合もあり得ます。『相談に来ていないから問題なし』という姿勢ではなく、職場にハラスメントや問題となる言動がないか、常に注意を払うことが企業に求められます」
E社両名 「相談窓口等を利用していなかったとしても…となると、目配りが重要ですね」
所長 「そうですね。判決理由では、上司らの叱責は『業務上相当な指導の範囲内だった』とする一方、異動を含め勤務状態を改善する必要があったのに『一時期、担当業務を軽減しただけで他になんら対応をしなかった』と指摘したんです」
E社社長 「なんら対応をしなかった…ねー」
所長 「4月の異動に期待したのに、異動にはならず『もう夢も希望もありません 疲れました』『あがき苦しむのに疲れました』などと同僚にメールを送っていたそうです。体重も15kg減少、7月の異動もないことがわかり、 一生職場から出られないと嘆き、自殺したようです」
E社両名 「うーーん。考えさせられますね」
所長 「労働施策総合推進法等の改正が成立し、2020年6月にパワハラが法律で定義される予定です。定義内容を守ることはもちろん重要ですが、定義に該当するかしないかにかかわらず、問題といえるような言動があれば結局は企業が賠償責任を負うことになります。適正な指導のあり方を探究していくことが重要といえます。ご注意くださいね」
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