県庁巡りで気づいた、お役所に必要な「やさしさ」の種類とは?

 

一方で新しく建てられた新潟、群馬、茨城の県庁は駅から遠い郊外にある。茨城は水戸駅からのバスの少なさに驚き、結局タクシーしか手段がなかった。広大な駐車場と周囲に土地があるのに意味があるとは思えない高層化。そして、その不便さの「かわり」のように最上階は市民に開かれた食堂や展望広場がある。

建物を外から見て「税金の無駄」と毒づいてみても、展望からの眺めのよさにその毒は抜かれる具合だ。平野に開けた街並みと遠くの山々、茨城や新潟では遠くに海も広がっている。天守閣に限られた人間しか登れなかった時代からすれば、展望コーナーのガラス窓の向こうの景色を指さして「あれなに!」と子供が声を張り上げる時代は平等でやさしい時代なのかもしれない。

エントランスやエレベーター内にある地域の特産品やキャラクターが模されたデコレーションはどこかあたたかい。地域を「知ってもらう」目的のコンテンツは少し心にやさしい気がする。

時代が移り変わっても建物で権威付けするのは、旧出雲大社や大山古墳(仁徳天皇陵)の時代から変わらないかもしれないが、少しずつでも本当に大切なものに気づいてくる人も少なくない。東日本大震災後、市役所や役場が津波の被害にあい、プレハブ建ての仮設庁舎で運営していた時期に頻繁に出入りしたことを思い出すと、「仮設でも結構いける」の声を多く聞いた気がする。

それでも建て替えには結果的にそれなりにお金をかけて再建した。役所を作るのにお金をかけることは作法のようなものだろうか。県庁をまわりながら思うのが、次の時代のキーワードは建物ではないこと、私がどこへ行けばよいか迷っている時に声をかけるメンタリティと庁内に示されたソフトコンテンツのホスピタリティが大切な気がする。

茨城県の県庁1階では、地域の戦隊ヒーロー「時空戦士イバライガー」の展示がされていたが、それは魅力度ワースト1位のプライドに思える。そういえば同県教育委員会職員が「ワースト1位だからできることが増えるのですよ」と語っていた。

image by: shutterstock

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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