失ったものばかりではない。コロナ禍だから気付けた大切なこと

 

そしたら先日この建物の入り口に管理室からの掲示が貼られていました。「最近楽器の演奏をしている住居があると、ある住居の方からクレームが来ました。当マンションは楽器演奏禁止なので、止めてください。」みたいなことが書かれていました。

きっとこのリコーダーの音が不快で管理室に苦情を言った方がいるのでしょう。でも、そんなこと、少しくらい大目にみればいいのにな、って僕は感じました。だってコロナ禍で学校行けないんだよ、公園でだって球技はしちゃいけないんだよ、じゃあどうやって子どもたちは、子どもたちの日常を体験したらいいのだよ、静かにスマホでゲームをただしてろって言うのかよ、少しくらい大目にみろよ、大人たちよ。…なんてことを思ったのでした。

でも、こんな風に思った自分の中で、そんな風に思ってる僕自身が意外でした。だってもし20年前くらいの平成まっさかりの若い僕だったら、徹夜でテレビの仕事してきて、やっと部屋にもどってさあ寝ようって思った時にピーピーとリコーダーの音が聴こえてきたら、それこそむしろそれにクレームをつけていたのは僕だったかもしれないわけです。ていうか、多分間違いなくクレームつけていたと思います。そんな僕が、令和のコロナ禍の閉じこもった中では、そんな下手なリコーダーの音を、むしろ楽しんでいる、むしろ欲している、いやむしろ守ろうと思っている。この自分の変化にとても驚いているのです。

この変化はなんで起こるのでしょう。まあ自分が歳とっただけかもしれません。あるいはやはりコロナ禍の恩恵なのかとも思うわけです。他者の行為を押さえつけることが、はたしてその社会にとっていいことなのか? 社会の調和のためにどんどんやれることが減っていく、どんどん窮屈になっていく、それって社会が閉じていくことなのではないか? 開かれた社会とは何か? それは窓を開いてたら、騒音が入ってくるかもしれません、虫が入ってくるかもしれません。でもそれと一緒に鳥のさえずりもリコーダーの音もはいってくるわけなのです。

これは入って来てもよくて、それは入っちゃダメなんて、それは自分勝手もいいとこです。そうするには、自分自身が閉じて密閉されて閉じこもるしかないわけです。なんならそんなに嫌なら、この建物から、嫌な貴方が出て行けばいいじゃないですか、なんなら東京を離れればいいじゃないですか。その場所にいるのだったなら、その場所の環境と、いいも悪いも含めて同居するしかないんじゃないか?と思うわけです。

まあ、当然、“程度”って話でもあると思います。でもその程度は子どものリコーダーなのです。それも何時間も吹いてるわけではないのです。大音量でもないのです。だったら許容しよう、それを受け入れよう、と思うことが、開かれた社会なんじゃないかと、自分を開くことなんじゃないかと思ったりもするわけなのです。

で、そんな開かれることの意味を閉じこもりながら考えている自分がいます。鳥のさえずりとリコーダーの音を聴きながら、窓を開きながら閉じた世界でこの文章を書いている自分がいます。

人類社会に侵入してくる新型コロナというウイルスは、開かれている窓から侵入してくるうるさい騒音なのでしょうか? 心地よい鳥のさえずりなのでしょうか? 同居しなければならない虫なのでしょうか? それは実は、リコーダーの音なんじゃないか? ってふと思ったりもします。

次世代の者が吹く音が、リコーダーの音です。それは決して上手くはありません。でも、それを吹いている者が、次の時代を担う者なのです。

それをうるさいと思うか? 嫌だと思って窓を閉めるか? それとも窓を開け放し、そのリコーダーの音を許容し、なんなら微笑ましく思うか? そんな選択をするのは、僕ら自分自身なのです。

image by: Shutterstock.com

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