「死後の世界」は本当にあるのか。心理学者が科学的理論を駆使して考えた

 

【臨死体験】

客観的な検証が難しくても、主観的な体験を集めて研究することはできます。

たとえば、希に「臨死体験」と呼ばれる貴重な体験をした人たちがいます。つまり、一度死んで生き返ったという人がいて、そういう人が、自分の死んでいる間の体験を振り返って報告する場合があるのです。

これらの報告には、多くの人の間で共通の傾向もあるため、死後も霊魂が存続することの証拠と考えることもできますが、一方では、その人たちの報告した内容、たとえば、霊魂だけが「幽体離脱」して、自分の死体や家族、医師たちを上から見下ろしていた、といった体験談が、特殊な状態におかれた脳が作り出した幻覚であるという可能性も否定できません。

確かに、生理学的に脳の活動が停止した状態であったにもかかわらず、その人の意識が連続しており体験が記憶されていたと実証できれば、これは、従来の脳科学の「常識」をくつがえすことになり、死後の霊魂の存続を示す証拠となるでしょう。しかし一方では、いくらその人が正直に自分の体験を報告していたとしても、当人が連続的体験であると思っている主観的な出来事が、生き返った直後に活動を再開した脳が短時間の内に創り出した一種の幻覚であるという可能性も否定できないのです。

もちろん、こうした議論そのものが「脳の活動=意識」という前提に立っています。しかし、そうした前提も絶対的なものではありません。

ですから、こうした現象は、その解釈の仕方によって結論が異なってきます。つまり、死後も霊魂が存在すると客観的には結論できないのと同時に、死んだら終わりと結論付けることも客観的にはできないのです。

同様のことは、「前世」を記憶しているとされる人々の証言や、「退行催眠(催眠状態で過去の意識状態へと遡る手法)」により、前世の体験を語らせる「前世療法」のデータについても言えることです。語られた内容が、現在の本人が知り得ないことで、それが客観的な事実と合致するとしても、これはあくまで「輪廻転生(りんねてんしょう)」の「状況証拠」です。

大量に語られた証言の中に「偶然」過去の事実と合致する事柄が含まれる確率を計算し、輪廻転生説に反駁しようとする研究者もいるでしょう。また、本人が自分の前世であると思っている記憶が、実はまったく別の人の体験に基づいたものであり、本人はESP(Extra Sensory Perception;超感覚知覚)を通じて別人の記憶にアクセスしている、というような仮説を用いて説明することも可能です。この場合、「輪廻転生」により、本人が死後に別の人間として生まれ変わる必要は必ずしもないということになります。ただし、それなら、先人の記憶が何らかの形で貯えられている必要があり、語っている本人が、なぜ、その人の記憶にアクセスできたのかという疑問が残ります。

ですから、死後の「魂の連続」を支持するような「状況証拠」が山のようにあっても、それをどう「解釈」するかは各自の「信ずるところ」により変わってきます。

笑って読むうちに、いつの間にか心理学的な知恵もついてくる、富田隆さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 「死後の世界」は本当にあるのか。心理学者が科学的理論を駆使して考えた
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け