3.世界をまとめる求心力の消失
なぜ、世界は求心力を失ったのか。それには、求心力とは何か、を考えなくてはならない。
例えば、国の求心力とは何か。通常、人は生れた国が祖国となる。国には法律があり、国民には権利と義務がある。
人は生れた瞬間、親子の関係が生じる。子供が生れる前提として結婚制度があり、他人が家族となる。
親は子供が自立するまで養育し、教育する。
学校という教育機関も国としての求心力を高める存在だ。各国が独自の歴史、文化、芸術、政治等を教育し、国民としての自覚を高めていく。
学校を卒業すると、一般的には就職し、会社で仕事を行う。もちろん、起業して仕事を始めることもある。
仕事をして、報酬を得て、生活を維持する。そして、納税することで、国や自治体が運営される。
これらをまとめると、ルールとお金、そして関係性に集約されるのでないか。
ルールは、組織ごとに設定される。国には国のルールがあり、会社には会社のルールがある。しかし、自由に国籍を他国に移したり、組織に縛られない働き方が増えるにつれ、ルールに縛られない人が増えてくる。集団で仕事や生活をするのではなく、個別に生活を選ぶ。もちろん、集団としての関係性は希薄になる。
地理や時間に縛られない生活ができるようになったのは、インターネットなどのデジタルテクノロジーのお蔭だ。
ネット上で仕事をして、ネット上で遊ぶ。個人の生活がネットに依存するにつれ、国や組織のルールより、ネットのルールが重要になった。
仮想通貨、ネットバンキング、ネット上の投資や取引が増えるにつれ、現金を使うこともなくなり、お金はデジタルデータとして認識される。お金は情報なのだ。
また、テレビや新聞というメディアは国や地域に依存している。そして、政治も国や地域に依存している。それらが、インターネットにより揺らいでくる。
情報収集の手段がSNSに移ることで、国やマスコミが情報をコントロールできなくなる。そして、多くの情報がリークされ、秘密が暴かれるようになると、これまでの政治手法は使えなくなる。もちろん、政党という組織も揺らいでいる。
4.AIによるマネー取引
関係性もルールもお金も、全てはネットでデジタルデータとして扱われるようになる。ネットの世界では、国家よりもビッグテックのルールが優先される。また、ビッグテックは、世界中の人々から、少額の費用を満遍なく徴収する仕組みを作り上げた。これまでは、国家しかできなかった徴税以上の仕組みを、民間企業のビッグテックが構築してしまったのだ。当然、国家以上の財力を持つようにな
るだろう。
個人は直接ネットとつながり、リアルな世界である国家、地域、家族、学校、会社等の組織のルールと関係性が希薄になっていった。
当然、リアルな世界の組織は弱体化していく。例えば、ある日突然、組織のスキャンダルが世間に知られることになり、一気に信用を失ってしまう。あるいは、磐石に見えた組織力が脆弱になり、組織が崩壊してしまう。
リアルマネーが姿を消し、デジタルマネー普及することも、国家や銀行という権威の弱体化につながっていく。
更に、税金による歳入より、国債による貨幣流通が増える。そして、物販やサービスに使われるリアルなお金より、投資に回るお金が増える。更に、法律を守らないブラックなマネーがマネーロンダリングされ、一般の金融市場に流入すれば、リアルなビジネスを圧迫していくごだろう。
最早、お金を稼ぐ最も効率の良い方法は、お金そのものの売買である。そして、金融市場の売買にAIが投入され、秒以下の単位で取引されるようになっている。
ここで扱われるお金は、我々の生活で使っているお金と同じものなのだろうか。仕事をして、支払われる報酬の数億倍の金額をAIが一瞬で稼ぎだす世界。こうなると、デジタルテクノロジーがお金を支配するようになるだろう。最終的には、一人の勝者が全てのお金を支配するかもしれない。
そんな時代になったら、人はどんなに努力してもお金を稼ぐことはできなくなる。それでは、社会というゲームは成立しない。
現在の状況は、世界そのものが成立するかしないかの瀬戸際である。全ての要素は不確実であり、何が起きるか分からない。もし、中国の不良債権が一気に表面化すれば、世界の金融は突然崩壊するかもしれない。
そうなったら、グローバリズムを捨てて、アナログに戻って、国単位で生きていくのだろうか。トランプ前大統領は、こちらの道を選択していたと思う。
それとも、デジタルを基本にした新しい世界秩序を作り、一つの世界国家による新体制を創造するのだろうか。ダボス会議は、こちらの道を提唱しているようだ。
どちらの選択肢を選んでも、異世界である。我々はこれからその異世界を経験するのか。それとも、既に異世界に転移しているのだろうか。
ファッション業界からビジネス全体を俯瞰する坂口昌章さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ