“中国も顔負け”な日本のデタラメ経済政策「アベノミクス」が招いた悲惨な結末

 

日銀が供給した522兆円のお札はどこへ

アベノミクスの《第1の矢》は異次元金融緩和で、これは確実に実行された。日銀が供給するカネの総額はマネタリーベースで、黒田東彦が日銀総裁に就いてアベノミクスが発動された2013年3月には135兆円だったのに対し、8年間で522兆円も増えて21年8月で約約5倍の657兆円に達した。

あれれ?日銀がお金を刷ってじゃぶじゃぶにすればインフレになるんじゃなかったんでしたっけ。そうすると人々が勘違いして競って消費に走るんじゃなかったんでしたっけ。そんなことは何も起きていない。そすると522兆円は一体どこへ行ってしまったのか。

結論から言うと、驚くべきことに、日銀の構内から外へ出ていないのだ。

日銀がマネタリーベースを増やすと言っても、ヘリコプターでお札をバラまくわけには行かないから、まずは国債を買う。しかし日銀が直接に市場から買い付けることはできないので、市中銀行が持っている国債を買い上げてその代金を各市中銀行が日銀内に置いている「日銀当座預金」に振り込む。

日銀当座預金は、本来は、各銀行がイザという場合に備えた準備金を積んでおくところだが、日銀と各行とのやりとりにも使われる。日銀がどんどん国債を買って日銀当座預金が増えても、その大部分は金利が付かないどころか、後には一部は逆金利をとられて置いておくと損になるような意地悪までなされたから、各行は居たたまれずにカネを引き出して投資や融資に回そうとするので、それを通じてマネタリーベースの増分が世の中に出回るはずだと想定された。が、そうはならず、13年3月にはわずか総計47兆円しかなかった各行の日銀当座預金は、8年間に494兆円も増えて542兆円にまで膨れ上がった。

マネタリーベースが522兆円増えたのに、各行が日銀内の口座に置いているマネーが494兆円も増えたということは、それが基本的に日銀の構内での自閉的なやりとりに終わっているということである。

人口減少社会の到来で需要そのものが減少

どうして各行が日銀口座からカネを引き出さないのかと言えば、話は簡単で、資金需要がないからである。

水野和夫=法政大学教授が言うように、16世紀以来の資本主義のグローバル化はすでに「終焉」し、全世界的に過剰生産状態に立ち至っていて、モノが余っているのは日本だけでない先進国共通の現象である。それに加えて日本では、どの先進国よりも早く「人口減少社会」が訪れてきていて、国土交通省の推計によれば、2050年には総人口が9,515万人、その40%が高齢人口であるという状態に至ることは避けられない。2006年の総人口1億2,777万人をピークとして、日本はとっくにその坂道を転がり始めていて、だから需要は確実に減少していくのである。

その根本的な構造問題に目を向けることなく、金融的マジックで人々の心をたぶらかして見せかけだけの好景気を幻視させようとしたところに、アベノミクスの誤りというには余りにも酷い犯罪性があったのである。

そういうわけで、国債発行残高は13年3月には744兆円であったのが、21年8月までに313兆円増えて1,056兆円に達したが、その増えた分をどんどん買い進めたのは日銀で、その結果、日銀の国債保有残高は21年7月末で534兆円と、国債全体の半分超となった。

国債を買っただけでは間に合わないと見た日銀は、株式にも手を染め、13年から本格的に買い漁りを始めた。ここでも、直接に市場で個別銘柄を買い付けるという乱暴なことはできないから、「上場投資信託(ETF)」を買うのだが、この額が20年末で簿価で36兆円、時価で52兆円の巨額に達し、国内株式の最大保有者となった。結果、日銀が発行済み株式の5%以上を保有する有力株主となっている1部上場企業は何と395社にもなった。

日銀が国内最大となる前のNo.1は「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」で、その保有高は47兆円。この年金ファンドも公的機関であるから、日本の株式市場は日銀のGPIFを合わせて約100兆円分もの国家的資金に支えられていることになる。国債市場も株式市場も、さらに言えば為替市場も財務省を通じて円安に誘導されてきたことも含めれば、国債・株式・為替の3大市場が国家管理下にある中国も顔負けの国家資本主義状態になってしまったというのが、アベノミクスというデタラメ経済政策の悲惨な結末なのである。

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