「半農半電脳記者生活」のきっかけを作った同志・藤本敏夫のこと

 

「鴨川自然王国」のそれから

登紀子さんは忙しく全国や世界を飛び回っていて、以前はそれほど頻繁に鴨川を訪れることはなかったが、藤本亡き後は自分が引き継ぐしかないと覚悟して、生活の本拠をそこに移して運営を指揮した。それを熱心に支えたのは、歌手活動を始めたばかりの次女のヤエさんで、彼女はやがて王国の研修生として農業者をめざしていた青年と結婚し、3人の子を育て、王国の女王の座を確立した。「半農半歌手」を名乗り、各地でのコンサートやラジオ番組などに出かけて行く一方、王国では週末オープンのカフェ「En」を開いてきた。

田植え・稲刈り作業を中心とする王国サポーター会員制度は、私が携わっていた時代より規模はやや小さくなったようだが続いていて、多くの人々がここを訪れる。また、藤本が亡くなる少し前に発案しNPO法人「ふるさと回帰支援センター」との共催で2000年から始まった「里山帰農塾」は、私が塾長を継ぎ、20名定員で2泊3日の合宿形式で年3~4回開催し、2010年まで続いた。たまたま手元に同年11月5日から3日間の「第36期里山帰農塾」の資料が残っていて、たぶんこれが最終回となったのではないかと思うが、そのメニューはこうだ。

《第1日》
10:00 開校式、自己紹介「私の農的生活への思い」
12:00 昼食
13:00 講義「森と川と田と海」(高野孟)
15:00 実習「山林間伐作業・炭焼き」
17:00 夕食
18:00 実習続き
19:30 終了

《第2日》
07:00 スワイショウ体操
07:30 朝食
08:30 実習「畑仕事」(藤本ミツヲ=ヤエさんご主人)
10:10 実習「蕎麦打ち」(井上静雄=移住者)
12:00 昼食(自分で打った蕎麦を頂く)
13:00 講義「私の里山暮らし」(小熊英男=帰農塾4期生)
14:40 講義「地元学」(甲斐良治=現代農業増刊編集長)
16:20 講義「藤本敏夫のこと」(加藤登紀子)
18:30 交流会

《第3日》
07:00 朝食
08:30 棚田見学・移住者訪問ツアー(林良樹=王国スタッフ)
12:00 昼食
13:00 炭窯開き
13:40 意見交換・レポート執筆
15:50 閉校式
16:10 解散

なかなか濃密なカリキュラムで、受講者にはおおむね好評だった。各回10数名から20名で、累計で500人以上が受講し、中には間を置いて2回受講した人もいたりした。その約半分ほどが何らかの程度と形態での里山生活者、帰農者となったことが判っていて、その意味でこの活動は大きな意義があったように思う。

今年は10月10日に開かれた王国の「収穫祭」では、元王国スタッフで今は近くの釜沼北集落で「小さな地球プロジェクト」代表を務める林良樹の企画・司会で、そのプロジェクトのパートナーである建築家の塚本由晴=東工大教授、長谷川孝夫=鴨川市長がリアルで、そして熊谷俊人=千葉県知事がオンラインで参加する村興しについての豪華なシンポジウムが開かれた。

熊谷知事は、今年3月の選挙で初当選する前から王国を訪れていて、よき理解者であるし、長谷川市長はもちろん王国や千枚田を市の重要な観光資源と捉えて何かと支援を怠らない。藤本は、ここを都市農村交流の一大拠点にすることを悶えるがごとくに希求していたが、20年後の今、その夢は達成されつつあると言える。(次号に続く)

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年12月13日号の一部抜粋です。次号以降の内容にご興味を持たれた方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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