“大国ロシア”という幻想。プーチンは「ウクライナ侵攻」の力など持っていない

2022.02.17
 

「大国ロシア」の通説を否定する①:天然ガスパイプラインは政治的駆け引きに使えない

ここで、「大国ロシア」について2つ目の通説を取り上げてみたい。それは、ロシアと欧州をつなぐ天然ガスパイプラインを巡る通説である。

ロシアなど天然ガス供給国は、EUなど需要国に対して圧倒的交渉力を持つというものだ。ロシアの資源量が圧倒的なのに対し、EUはエネルギー資源に乏しい。そのため、EUはロシアの強引な天然ガスを利用した外交攻勢や価格引き上げ構成に悩まされる。だから、EUは対ロ経済制裁に慎重にならざるを得ないというものだ。

だが、現実の天然ガスの長距離パイプラインによるビジネスでは、供給国と需要国の間で、一方的な立場の有利、不利は存在しない。パイプラインでの取引では、物理的に取引相手を変えられないからだ。その一方で、天然ガスは石油・石炭・原子力・新エネルギーでいつでも代替可能なものであり、供給国が人為的に価格を引き上げたりすると、たちまちに需要不振になってしまう。なによりも、供給カットなどを行うと、供給国は国際社会での信頼を一挙に失ってしまうのだ。

要するに、ロシアなど供給国が、需要国に対して価格引き上げや供給カットで外交攻勢をかけることは事実上不可能だ。現実の天然ガスビジネスでは、供給国と需要国の交渉力は、ほぼ対等の関係にあるのだ。

ロシアが、これまで何度も天然ガスを国際政治の交渉手段として使ってきたじゃないか、という反論があるかもしれない。だが、これまで度重なったロシアによるウクライナへの天然ガス供給カットは、ウクライナによるEU向け天然ガスの無断抜き取りとガス輸入代金未払いが理由であった。ロシアが正当な理由なく「政治的」に供給カットしたことはない。ロシアはソ連時代から欧州にとって、最も信頼できるガス供給者だったというのが事実だ。

現在、ドイツとロシアをつなぐ2本目の天然ガスパイプライン「ノルドストローム2」が昨年9月に完成しながら、EUの承認が遅れていまだに稼働していない。EUは、天然ガスがロシアに武器として利用されないよう、あらゆる手段を尽くすと表明している。

だが、EUはロシアの出方を警戒してはいるが、着実に手を打っている。EUは米国などから天然ガスを調達しようとしている。パイプラインでなく、LNGとして輸送するのでコスト高ではある、だが、それを我慢すれば、他から調達可能ということは事実なのだ。

「大国ロシア」の通説を否定する②:ロシア経済の脆弱性

さらに、ロシア経済の脆弱な体質も指摘したい。ロシアは旧ソ連時代の軍需産業のような高度な技術力を失っている。モノを作る技術力がなく、石油・天然ガスを単純に輸出するだけだ。その価格の下落は経済力低下に直結してしまう。

実際、2008年のリーマンショック後や、2014年のウクライナ危機の後の経済制裁、その後の長期的な原油・ガス価格の下落は、ロシア経済に深刻なダメージを与えてきた。輸出による利益が減少、通貨ルーブルが暴落し、石油・天然ガス関係企業の開発投資がストップし、アルミ、銅、石炭、鉄鋼、石油化学、自動車などの産業で生産縮小や工場閉鎖が起きたのだ。

現在、原油・ガス価格は高騰しているが、その決定権を持つのは、「シェール革命」で世界最大の産油・産ガス国に返り咲いた米国だ。米国がシェールオイル・ガスを増産し、石油・ガス価格が急落すれば、ロシア経済はひとたまりもない。

バイデン政権は、環境関連団体との関係もあり、シェール増産には慎重だが、ロシアの生殺与奪の権利を有しているのは間違いない。

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