“大国ロシア”という幻想。プーチンは「ウクライナ侵攻」の力など持っていない

2022.02.17
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ウクライナ危機を巡り強気の姿勢を一切崩さぬロシアですが、その裏で進行しているのは、アメリカやNATO各国が描く「プーチン圧倒的不利」とも言えるシナリオのようです。今回、巷間語られている「大国ロシアの復活」について「幻想に過ぎない」と一刀両断するのは、立命館大学政策科学部教授で政治学者の上久保誠人さん。上久保さんはその理由を地政学を用いて解説するとともに、ロシアによるウクライナ侵攻の危機を主張する米英首脳の思惑を推測しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

ウクライナ危機、「大国ロシア」は幻想でありプーチンのパフォーマンスだ

ロシアによるウクライナ侵攻の危機が高まっているという。ロシアは、ウクライナ国境に約10万人の軍を集めている上に、ウクライナと国境を接するベラルーシにも約3万人の部隊を送っている。これに対して、米国は東欧などに約3,000人を派兵し、英、独もNATO(北大西洋条約機構)戦闘部隊を強化するために増派を検討しているという。

ウラジーミル・プーチン露大統領は、NATOの東方拡大とロシア領土近くへの戦闘部隊の展開を阻止することが軍事圧力の目的と明言している。プーチン大統領は、ジョー・バイデン米大統領、エマニュエル・マクロン仏大統領などなどNATOの首脳と会談した。特に、ウクライナのNATO加盟を認めないと確約するように強く要求している。

米国、NATOは、プーチン大統領の要求を拒否しているが、欧州でのミサイル配備などでの協議をロシアに打診している。それでも、ロシアは歩み寄る姿勢を見せず、英、仏、独などの仲介にも、歩み寄りをみせない。プーチン大統領の強硬姿勢に、米国、NATOが押され気味のようである。「大国ロシア」の復活で今にも戦争が始まりそうな緊張だ。だが、ロシアに米国やNATOを敵に回すことになる、ウクライナへの侵攻を強行するような力が本当にあるのだろうか。

結論から先にいうと、「大国ロシア」は幻想にすぎない。それは、ソビエト連邦が崩壊し「東西冷戦」が終結した後の歴史を、地政学を用いて振り返れば明らかだ。

東西冷戦終結後、ロシアの影響圏は東ドイツからウクライナ・ベラルーシまで後退した。

世界地図を広げてみよう。東西冷戦期、ドイツが東西に分裂し、「ベルリンの壁」で西側と東側の陣営が対峙していた。元ソ連の影響圏は、「東ドイツ」まで広がっていたということだ。しかし、現在ではベラルーシ、ウクライナなど数か国を除き、ほとんどの元ソ連の影響圏だった国が北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)加盟国になった。つまり、東西冷戦終結後の約30年間で、元ソ連の影響圏は、東ドイツからウクライナ・ベラルーシのラインまで後退したということだ。

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NATO加盟国の変遷 image by: Patrickneil, based off of Image:EU1976-1995.svg by glentamara , CC BY-SA 3.0, via Wikimedia

それでは、2014年の「ウクライナ紛争」で、ロシアがクリミア半島を占拠したことはどう考えるのか。あれこそ、「大国ロシア」復活を強烈に印象付けたというかもしれないが、それは違う。

むしろ、ロシアによるクリミア半島占拠とは、ボクシングに例えるならば、まるでリング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものではないだろうか。

今回のウクライナ危機も、ロシアと米国・NATOの対立の構図は同じようなものだ。繰り返すが、プーチン大統領は、これ以上のNATOの東方拡大を止めること、特に、ウクライナのNATO加盟を認めないことを強く主張している。これは、「大国ロシア」の強気というよりも、ウクライナがNATOに加盟したら、安全保障上ロシアは耐えられなくなるという強い危機感を示しているのではないか。

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