“大国ロシア”という幻想。プーチンは「ウクライナ侵攻」の力など持っていない

2022.02.17
 

「ロシア大国主義」の幻想

要するに、プーチン政権下で「ロシア大国主義」が復活しているというのは、実は虚構に過ぎないのである。ソ連崩壊後、ロシア人には様々なコンプレックスが残り、明確なアイデンティティがなくなっている。明確な国家的思想もなく、国家を団結させる唯一の路線もない。社会はソ連のアイデンティティから、新しいロシアのアイデンティティを探し求めながら揺れ動いてきた。

プーチン大統領は、2000年の就任演説以降「大国ロシア」という言葉を頻繁に使用してきた。2000年代前半には、エネルギー価格の高騰もあいまって急速な経済力の回復を実現させたことで、プーチン大統領の掲げる「大国ロシア」は、自信を取り戻したロシアの新しいアイデンティティとなった。だが、繰り返すが「大国ロシア」は虚構に過ぎない。現在のロシアには、どこかを征服したり、失った領土を再併合しようという国力はない。隣国に対する関心はあるがそれも「ソフトに」優位に立ちたいということであって、厳格にコントロールしようとするものではない。「大国」という概念は、過去の遺物でしかないのである。

バイデン米大統領やボリス・ジョンソン英首相が、ロシアが今すぐにでもウクライナに侵攻すると煽っている。それは、「大国ロシア」への恐怖というより、ロシアの弱みを見透かして追い込んでいるようにみえる。

戦争を回避できれば、それは粘り強い交渉で平和をもたらしたという米やNATOの功績となる。一方、ロシアが耐え切れずに開戦に踏み切れば、それはロシアにとって自殺行為となる。どちらにしても、ロシアにとって非常に分が悪いシナリオが描かれているように思う。

image by: Asatur Yesayants / Shutterstock.com

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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