いま「ビール醸造施設付き酒場」が増加中のワケ。立地を選ばぬ“強み”の秘密

 

つくり手と受け手の距離が近い

小川氏に「クラフトビールをつくる上で重要なことは何か」と尋ねた。小川氏はこう語る。

「味はもちろん大事ですが、ネーミングが重要。当社では新しいスタイルが出来上がるたびに製造チームが飲みながら話し合って考えています。例えば、当社に『ねこぱんち』というクラフトビールがありますが、これは“強烈ではないが、しっかりとしたパンチがある”というスタイルから名づけられました。こうして「ねこぱんちシリーズ」ができていきました。瓶詰する場合はラベルも重要です。当社では自社でつくっています。クラフトビールを買い求めるお客様はジャケ買いをするパターンが多いのでネーミングとラベルが重要になります」

“強烈ではないが、しっかりとしたパンチがあるビール”ということで「ねこぱんち」

“強烈ではないが、しっかりとしたパンチがあるビール”ということで「ねこぱんち」

「ねこぱんち」というネーミングには何とも遊び心が感じられる。このようなことからつくり手(クラフトビールメーカー)と受け手(クラフトビールファン)の距離感が近くなるようだ。

その好例としてライナの店舗展開の事例を紹介したい。

同社では2016年12月、JR錦糸町駅北側より徒歩5分ほどの場所(ほぼ住宅街)に「VECTOR BEER 錦糸町店」をオープン。これは同社のビール以外にほかのメーカー品も飲むことができるクラフトビールレストランで、たちまちにして人気店となった。

JR錦糸町駅北側より徒歩5分ほど、ほぼ住宅街の中にある「VECTOR BEER錦糸町店」

JR錦糸町駅北側より徒歩5分ほど、ほぼ住宅街の中にある「VECTOR BEER錦糸町店」

「VECTOR BEER錦糸町店」の利用客は20代30代が中心

「VECTOR BEER錦糸町店」の利用客は20代30代が中心

そして、JR錦糸町駅南側で「錦糸町PARCO」の計画が立ち上がったとき、真っ先に出店のオファーがあった。こうして2019年3月に同施設のオープンとともに、1階のフードホールで「VECTOR BEER 錦糸町PARCO店」の営業を開始した。今では「わが町のビール屋さん」といった存在感があり、錦糸町の人々から親しまれている。

「VECTOR BEER錦糸町PARCO店」の店頭、しっかりと地元の人々に定着している

「VECTOR BEER錦糸町PARCO店」の店頭、しっかりと地元の人々に定着している

クラフトビールは「愛好者」の世界である。たくさん飲むと酩酊するが、そもそも「辛い」「悲しい」で飲む酒ではない。存在がそもそもハッピーだ。だからクラフトビールの愛好者が集まってくる。その存在にみな誇りを感じている。クラフトビールはそれが存在するだけでお客を引き付ける力となっている。

image by: 千葉哲幸

協力:㈱カロスエンターテイメント 

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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