小泉悠氏が解説。苦戦するロシアと粘るウクライナで「踏み込めない西側」の見えぬ出口

 

西側の圧力は強まるが…

こうした中の3月24日、ベルギーのブリュッセルでは3つの首脳級国際会議が開催されました。NATO、EU、そしてG7の緊急首脳会合がそれで、議題は当然、ウクライナ問題に集中しました。

まずNATOについて見てみると、加盟30カ国の首脳はロシアのウクライナ侵略を強く非難するとともに、即時の停戦とロシア軍の撤退を要求。さらに「各国が外部からの干渉なしに安全保障上の取り決めを選択できる」という原則を確認するとともに、ワシントン条約第10条に基づく「NATOのオープンドア政策」を再確認すると明言しました。ロシアの侵略を受けてもNATOの東方不拡大には同意しないということです。
NATO – News: Statement by NATO Heads of State and Government – Brussels 24 March 2022, 24-Mar.-2022

他方で、実力でロシアの侵略を排除するという文言はここには見られません。ロシアが世界最大級の核保有国であることを考えるとこれは当然とも言えますが(つまり、NATOが介入すれば第三次世界大戦になってしまう)、ウクライナのゼレンシキー大統領(ビデオ参加)が求めた戦闘機供与などのより突っ込んだ軍事援助要請についてもなんら明確な回答は盛り込まれませんでした。

これに先立つ16日、米メディアではスロヴァキア政府が旧ソ連製のS-300長距離防空システムをウクライナに供与する準備があるという消息筋の見方が報じられており、今回の緊急首脳会合では何らかの成果があるかとも思われたのですが、結局そこまでは踏み込まなかったということでしょう(ただしNATOの共同声明では4月に外相会合を開き、ロシアの侵略に対抗するための具体的な支援案について話し合うとしている)。
Slovakia preliminarily agrees to send key air defense system to Ukraine – CNN

この点はEUやG7についても同様で、ロシアに対するさらなる制裁の強化は打ち出されたものの、今進んでいるロシアの侵略を止めるために強制力を発動するという話にはなっていません。(メルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』2022年3月28日号より一部抜粋。全文はメルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』を購読するとお読みいただけます)

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image by: Drop of Light / Shutterstock.com

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千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省国際情報統括官組織で専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員などを務めたのち、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。

 

ロシアの軍事や安全保障についてのウォッチを続けてきました。ここでは私の専門分野を中心に、ロシアという一見わかりにくい国を読み解くヒントを提供していきたいと思っています。

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