小泉悠氏が解説。苦戦するロシアと粘るウクライナで「踏み込めない西側」の見えぬ出口

shutterstock_2129012939
 

ロシアがウクライナ侵攻を開始してから1ヶ月。ウクライナの粘り強い抵抗により、将官が7人も死亡するなどロシアが苦戦し一進一退と見るのは、ロシアの軍事・安全保障政策が専門の軍事評論家・小泉悠さんです。今回のメルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』では、海外の情報機関やニュースサイトが伝える情報を分析。この先の戦いのカギとして、ロシアに対し譲歩しない代わりに、ゼレンスキー大統領が求める強力な軍事的支援にも踏み込めずにいるNATOが、4月の会合で具体的な支援策を出せるどうかに注目しています。

ロシアという国を読み解くヒントを提供する小泉悠さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

※ 本記事は有料メルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』2022年3月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール小泉悠こいずみゆう
千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省国際情報統括官組織で専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員などを務めたのち、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。

 

苦戦続くロシア、粘るウクライナ、踏み込めない西側

開戦1ヶ月で戦況は一進一退

ウクライナでの戦争は、開戦から1ヶ月を経ました。当初の予想を大きく裏切ってロシアはウクライナを攻めあぐね、戦争の出口はいまだに見えてきません。

この状態が膠着を意味するかどうかはまだわからないと前号(第169号(2022年3月21日)ロシアの非核エスカレーション抑止攻撃|note)では述べましたが、それから1週間を経ても、戦況は大きく変わっていません。相変わらずキーウやハルキウは陥落せず、むしろ前者の周辺ではウクライナ軍が部分的に反撃に出てロシア軍に防勢を強いてさえいます。

米国防総省によると、ロシア軍はキーウ北西部15-20km地点で前進を止め、塹壕を掘って防勢に入っており、東部では20-30kmまで迫っていたロシア軍が55kmのところまで後退したとされています。
Battle in Eastern Ukraine Heats Up as Russians Are Driven Back East of Capital > U.S. Department of Defense > Defense Department News

また、ベルジャンスクでは何らかの手段でロシア海軍の揚陸艦を撃沈するという成果を挙げたらしいことはNEW CLIPSのコーナーで紹介したとおりであり、さらに3月25日には6人目の将官(南部軍管区第49諸兵科連合軍司令官のヤコフ・レゼンツェフ中将)が戦死したという情報も出回りました(これ以外に国家親衛軍の将軍も一人戦死しており、ロシア全体では計7人)。ウクライナ軍がロシア軍の攻勢を凌ぎながら、可能な範囲で逆襲を続けていることが見て取れます。
ロシア軍将官7人死亡、1人解任 西側当局:AFPBB News

また、ロシア軍に関する公開情報分析で有名な『インフォルム・ナパーム』は、戦死した兵士に贈られる勲章のシリアルナンバーから判断するに、ロシア軍の戦死者は最初の1週間だけで4800人近くに上っていた可能性を指摘しています。
Medal count: OSINT analysis of real Russian losses for the first week of hostilities in Ukraine – InformNapalm.org

ただし、米国防総省によると、ロシア軍はアゾフ海に臨む要衝マリウポリの市内にまで侵入しているほか、東部のドンバス地方でも活動を活発化させているとのことです。また、ウクライナも占領地域を大幅に奪還できるほどの大攻勢に出られているわけではありません。3月28日はウクライナ軍が北東部のスムィでロシア軍の大隊戦術グループ(BTG)を撤退させたとされていますが、米戦争研究所(ISW)は再編成のための撤退であったとしています(それでもBTGを丸ごと撤退させるのはこれが初めてのようですが)。

全体として言えば、戦況は一進一退で、どちらも決め手を欠く状況が続いているということになるでしょう。

ロシアという国を読み解くヒントを提供する小泉悠さんのメルマガ詳細・ご登録はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 小泉悠氏が解説。苦戦するロシアと粘るウクライナで「踏み込めない西側」の見えぬ出口
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け