サウジ皇太子がバイデン大統領に放った一言が示す、世界の米国不信

 

このような米露の鍔迫り合いが続く状況で、米側は一歩も二歩も踏み込んで、旧ソ連邦のバルト3国、黒海に面した旧東欧のルーマニア、ブルガリアをNATOに加盟させ(04年)、それと並行してやはり旧ソ連邦のジョージアに「バラ革命」(03年)、ウクライナに「オレンジ革命」(04年)を仕掛けて脱共産化を促して次のNATO加盟候補がその両国であるかの印象を盛り立てた。

実際、バラ革命によって誕生したジョージアのサアカシビリ大統領は、米コロンビア大学の法科大学院を出てニューヨークの法律事務所に勤務した経験もある親米派で、政権を獲るとすぐにブッシュ父米大統領の要請に応えてイラクにジョージア国軍を派遣して米国の同盟国となる意思を鮮明にした(が、後に失脚して一時はウクライナに亡命、ポロシェンコ前大統領の庇護の下でウクライナの国籍を取得し、どこぞの州知事を務めたりしていた)。

こうしたNATOの東方拡大の露骨な動きを黙って見守っていろというのは無理な注文で、ロシアのプーチンはいずれ、ロシアに国境を接し国会にも面するジョージアと歴史的な兄弟国であるウクライナにもNATOの“魔手”が伸びて、そこにモスクワを向いたミサイル基地が作られるに相違ないとの確信を深めるのである。

となると米側も、本来「排除の論理」に立つNATOを「包摂の論理」に活用しようなどという無理な偽装を投げ捨てて、NATOの東方拡大が実はロシアを権威主義陣営の代表格として再び“敵”に仕立て上げるための術策であることを隠さなくなる。つまり米国は冷戦後、ロシアを包摂した新しい安保秩序の形成に失敗した。その結末がウクライナ戦争である。

アジア、中東、中南米でも“敵”探し

そうなると米国の知性はますます倒錯に陥って、そこら中に“敵”を探して自国が“民主主義の盟主”であることを証明しようとする。

東アジアにおいてはその対象は「中国」で、習近平が今にも台湾に武力侵攻して来るかの全く根拠のない観測をばら撒いてそれに向かって同盟国を結集しようとするが、日本以外は余り真に受けてはいない。台湾の軍事的危機は、台湾側が現状の「事実上の独立」状態に我慢しきれなくなって「名目上の独立」を宣言した場合にのみ発生するものであることを、当の中国、台湾をはじめ全世界は軍事常識として知悉しているので(本誌No.1164「間違いだらけの台湾有事論」参照)、米国が何で大騒ぎしているのか訝っている。

なおペロシ訪台とそれに対する報復としての中国の軍事演習については、岡田充「海峡両岸論」No.141(8月13日)の詳しい分析が参考になる。

海峡両岸論NO.141 「一つの中国」、米日との対立が先鋭化 ペロシ訪台と「第4次海峡危機」

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