サウジ皇太子がバイデン大統領に放った一言が示す、世界の米国不信

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ウクライナ戦争は、まもなく半年になろうとする今も終わりが見えません。この戦争の原因の一つが、冷戦後にも「NATO東方拡大」を進め、それまで同様の「排除の論理」を振り回した米国にあるとするのは、ジャーナリストの高野孟さんです。今回のメルマガ 高野孟のTHE JOURNAL 高野孟のTHE JOURNAL 』では、米国の世界観、時代観の錯誤を指摘。サウジアラビアを訪問したバイデン大統領がムハンマド皇太子に浴びせられたとされる痛烈な一言や、南北アメリカ大陸においても米国の振る舞いが各国から批判され、米国不信が高まっている現状を紹介しています。

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世界が納得しない「民主主義vs権威主義」の時代観/「排除の論理」の振り回しに誰もがうんざり

米国のバイデン政権は、明らかに戦略論的知性を喪失していて、ウクライナの戦争を煽るだけ煽ってロシアのプーチン大統領を全世界的な極悪人に仕立て上げる宣伝戦には半ば成功したとはいえ、その戦争そのものをどうやって収めるかの展望を描けずにいる。

ウクライナには、米国からミサイルはじめ武器・弾薬を湯水の如く供給してもらう以外に継戦能力を維持する道はなく、そのため同国のゼレンスキー大統領は「もっと武器を」と叫び続けているものの、流石の米国にも予算に限界があり、永久に戦争を続けさせるわけにはいかない。

こんなことになってしまう根本原因は、現今の世界が「民主主義vs権威主義」という原理的な対決軸で動いているとする、完全に誤った世界認識、時代観──そう捉えることで「自由主義vs共産主義」の戦いという冷戦時代の図式が亡霊のように蘇り、米国が前者の盟主として君臨し得た懐かしい過去が戻ってくると思う幻覚──にある。

さらに、それが誤解であり幻覚であるとすると、それをそのまま東アジアに横滑りさせて、台湾危機を煽ってそれに雄々しく立ち向かう米日筆頭のインド太平洋のクアッド軍事同盟を形成しようとするバイデンと岸田文雄首相の努力方向も、また虚しいものとなる。

そこまで遡って論じないと、米国のこの戦略論的な大混乱を克服することはできないだろう。

NATOは冷戦の遺物

本誌がこれまでも繰り返し主張してきたように、NATOは冷戦の遺物であり、本来は、相手方のワルシャワ条約機構(WPO)をゴルバチョフ=旧ソ連大統領が1991年に潔く解散したのに対応して解散すべきものであった。そうならなかったのは、当時のブッシュ父米大統領が冷戦終結の世界史的意味をまるで理解せず「米国は冷戦という名の第3次世界大戦に勝利し“唯一超大国”となった」という錯覚の下、NATOを存続させ、それを梃子として引き続き欧州・ユーラシア大陸への関与を維持しようと欲したからである。

当時、独仏を中心とする西欧には、1975年にヘルシンキで始まった「全欧安保・協力会議(CSCE)」にNATO諸国はじめ西欧の中立国、旧東欧、旧ソ連まで参加していることを活用して、これを全欧の新しい地域安全保障の中心的な枠組みとし、それを過渡的にバックアップするものとしては独仏中心の「欧州共同防衛軍」を編成してNATO軍に置き換えるという構想が芽生えていた。なお、CSCEは1995年に常設機構となり「全欧安保・協力機構(OSCE)」となったものの、依然としてNATOに不当に頭を押さえつけられていることに変わりはない。

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