中東では、バイデン大統領が7月15日にジッダを訪れて、ウクライナ戦争を進めるロシアを包囲する経済制裁に加わるようサウジアラビアに働きかけたが、失敗に終わった。サウジのムハンマド皇太子は「米国の価値観を100%押し付けようとすれば、付いていくのはNATO諸国だけで、それ以外の世界の国々は米国と付き合わないだろう」と、「民主主義vs権威主義」の構図そのものを明確に否定した。
皇太子は「ウクライナに侵攻したプーチンは確かに犯罪者だが、それはかつて、ありもしない大量破壊兵器を理由にイラクに侵攻したブッシュ子大統領と同罪であり、あなたに偉そうなことを言える資格はない」とまで言って突き放したとされる。
中南米では、米国は前々からキューバ、ニカラグア、ベネズエラの3カ国を「権威主義の独裁政権」として忌み嫌い、去る6月6日から28年ぶりに米国がホスト国となってロサンゼルスで開催した「第9回米州首脳会議」に当たってその3カ国の参加を拒んだ。
するとそれに反発したメキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル、ボリビア、ウルグアイなどが欠席し、また出席者からも「ホスト国に参加国を選ぶ権利があるわけではない。多様性こそ民主主義を育む」(アルゼンチンのフェルナンデス大統領)、「米州首脳会議の力は、すべての国が対話し、統一行動に合意することにある」(ベリーズのブリセニョ首相)など、米国が地域機構の「包摂の論理」を全く理解せずに自分だけが「排除の論理」を振り回す権利があるかに振る舞っていることを非難する発言が相継いだ。
こうしてバイデン政権は「民主主義vs権威主義」という自分で描いた誤った図式に自分で足を取られて転びそうになっているのであり、日本がもし本当に同盟国と言うのであればその誤りを指摘し正すことを助けるべきだろう。誤った図式に黙って付き従うことが同盟国の役目ではない。(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年8月15日号より一部抜粋)
この記事の著者・高野孟さんのメルマガ
image by: Gints Ivuskans / shutterstock.com