あの「悪夢の紛争」が再燃か?ウクライナ戦争の裏側で燻る新たな火種

 

ニュートラル・パワーのグループに属する国々は52か国だったかと思いますが、世界の人口の32%を占めていますが、その行動基準は“民主主義の価値”といった測れないものではなく、あくまでも自国にとって得か損かという点です。

その最たる例は、インドとトルコでしょう。

インドについては、すでに中国との緊張を抱えていることもあり、無碍に中国グループと与することはないですが、口だけ出してきて何も与えない欧米諸国グループとは距離を取り、欧米諸国が制裁を課して締め出しを狙うロシア産の石油や天然ガスの精製を一手に引き受け、中継基地としてニーズのある国々や企業に売るという流通網も確立しています。

結果、インド経済は潤い、ロシアにとっては抜け道を作ってもらう見返りに市場価格よりも安価でインドに天然ガスを販売し、しっかりと外貨収入も得るという仕組みが出来上がっています。同時に、インドから石油や天然ガスを買う企業も多いため(欧米の企業も多い)、一つの市場がインドを中心に出来上がっています。

もちろん欧米諸国もインドのこのような振る舞いを黙認しているわけではなく、再三、欧米側につくように説得していますが、ここでもインドは中国による脅威に対抗するための枠組みという位置づけでクワッド(日米豪印)やIPEF(インド太平洋経済枠組み)に参加し、また安全保障上の協力にも参加していますが、欧米諸国が望む対ロ制裁にも非難にも加わらず、独自路線を貫いています。

トルコについては、NATOのメンバーでありつつも対ロ制裁には加わらず、ロシア機や船舶の受け入れも通常通りに行い、滞りがちの国際物流のハブ的な役割を果たすことで、しっかりと立ち位置をキープしています。

ロシアに対しては、7月19日そして8月5日にプーチン大統領と会談し、両国間の経済協力強化で合意していますが、それと並行してウクライナにKargu-2を含む自律型致死兵器システムや無人軍用機を売り、しっかりと両にらみで経済的な利益を得ています。

そして、これまでのところうまく行ってはいませんが、ロシアとウクライナの停戦合意の仲介役を買って出たり、UNを引きずり出して黒海の封鎖問題の解決役にしっかりと顔を並べ、国際情勢におけるプレゼンスをしっかりと保ったりしています。

トルコ政府の外交アドバイザーの言葉を借りれば、「トルコはNATOの一角に甘んじるつもりはないし、かといってロシアに媚びることはない。あくまでもトルコはトルコ独自の路線を進むのだ」ということで、ウクライナ危機を機にトルコ自身を国際情勢上の一極に位置付けようとしていることが分かります。

他にはサウジアラビア王国にリードされる産油国群は、ロシア産天然ガスと石油が欧米の制裁対象になっていることで暴騰する原油・天然ガス価格を盾に、国際情勢における発言権を行使しています。僅かな増産を(OPECプラスのメンバーでもあるロシアと合意する形で)行いましたが、世界的なエネルギー危機を一転させるほどの規模には到底達しないレベルで、ここでも戦略的な計算が見て取れます。

この世界の3極化は、実際にはペロシ議長の訪台以降高まる米中間の緊張を受けてさらに鮮明化してきています。アメリカは明確に台湾支持を掲げ、軍事・経済両面で本格的に台湾支援に乗り出す方針のようですし、欧州各国も、すでにクワッドへの連帯を示している独仏英を中心に、台湾シフトが明確になってきました。

もちろん中国は【核心的利益】と位置付ける台湾に欧米の手が伸びることを毛嫌いして、様々な挑発行為に出ています。ただ、挑発以外の手段が繰り出せず、秋に共産党大会を控える時期でもあることから、対立構造のアピールは国内向けにとどめ、対外的には威嚇はしつつもできるだけ静かにやり過ごしたいという思惑も見え隠れする、非常にデリケートな情報運営に思えます。

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