米国の罠にハマっただけ。安倍元首相「インド太平洋論文」を本当に書いたのは誰か?

 

沖縄を売った「天皇メッセージ」

よく知られているように、この天皇メッセージは同年9月19日に宮内府御用掛(英語通訳)の寺崎英成がGHQの政治顧問ウィリアム・シーボルトを訪れて伝え、直ちにシーボルトからマッカーサー司令官と本国のマーシャル国務長官、国務省政策企画部長ケナンらに報告された。後年、公開された米外交文書の中からその電文コピーが発見されて大騒ぎになったのだが、要点は次の3つ。

1.天皇は、米国が沖縄本島およびその他の琉球諸島の軍事占領を続けることを望んでいる。天皇の意見では、そのような占領は米国の利益となり、また日本の防護にもなる。日本国民は、ロシアの脅威を恐れているだけでなく、米軍の日本占領終結後に国内で右翼や左翼の集団が事件を引き起こしそれに乗じてロシアが日本に内政干渉するようなことになることをも恐れているので、そのような米軍による沖縄占領継続の動きを広く歓迎するだろう。

2.天皇の考えでは、沖縄その他の島々への米国の軍事占領は、日本に主権を残したままでの長期租借――25年ないし50年あるいはそれ以上――の形式に基づくべきである。天皇によれば、このような占領の方法は、米国が琉球諸島に対して永続的な占領の企図を持たないことを日本国民に納得させ、また他国、とりわけソ連と中国が同様な権利を要求するのを阻止するだろう。

3.手続きについては、寺崎氏は、沖縄およびその他の琉球諸島の「軍事基地権」の取得は、連合国の対日平和条約の一部をなすよりも、むしろ米国と日本との2国間条約によるべきと考えていた。寺崎氏によると、前者の方法は、押し付けられた講和という感じがあまりに強すぎて、日本国民の同情的な理解を危うくする可能性がある。

見る通り、この4カ月前に施行されたばかりの日本国憲法下ですっかり丸腰となった日本を、占領終結後も米軍に守って頂きたい、その担保として沖縄を直接占領下に差し出すのでどうか受け取って頂きたいと「懇願」しているわけである。しかも、これを講和条約の一部に書き込めば他の連合国がうるさいので、それとは別立ての日米2国間条約で取り決めた方がいいと、日本国民と国際社会からの反発を交わすための“知恵”まで授けていることになる。

実際、米国のポスト占領戦略はこの天皇のアイデアを骨格として組み上げられ、1952年のサンフランシスコ講和条約と日米安保条約と沖縄占領の対米従属3点セットとなってその後の日本を規定することになるのである。天皇メッセージとの違いは、日米安保条約が日本本土の半占領状態を継続する取り決めとなり、沖縄は何の取り決めもなされないまま米軍の足元に投げ捨てられたというところである。

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