マウンテンバイクは改造と遊びから生まれた。ユーザー発のイノベーションを後押しする「博報堂」の画期的な試みとは?

2023.01.12
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昨今よく耳にするようになった「ユーザー・イノベーション」なる言葉。それは一体何を意味し、どのようにして起こされるものなのでしょうか。そんな疑問を解消してくれるのは、神戸大学大学院教授で日本マーケティング学会理事の栗木契さん。栗木さんは今回、ユーザー・イノベーションの何たるかをわかりやすく解説するとともに、その活用に取り組む企業を強力にサポートする、博報堂が開発した「ユーザー・イノベーション・プログラム」の実力を紹介しています。

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

博報堂が開発を進めているユーザー・イノベーションのためのマーケティング・リサーチ

イノベーションの担い手は誰か

ユーザー・イノベーションは、米国MIT(マサチューセッツ工科大学)教授のエリック・フォン・ヒッペルが主導してきた経営学の新しい研究領域である。博報堂は、ヒッペルたちの研究成果をマーケティング・リサーチに取り入れ、企業における製品やサービスの開発に活用しやすくするための取り組みを進めている。

イノベーションは社会を変え、組織に大きな成長にもたらし、個人の自由を拡大する。では、そこにあって、創意工夫をかさねてイノベーションを生み出すのは誰なのか。

イノベーションの多くは、現代では企業における研究開発から生まれている。さらにイノベーションは、政府組織や大学などからも生まれる。たとえばiPhoneを開発したのは米国のアップルだし、QRコードを開発したのは日本のデンソーである。インターネットは米国の国防総省が資金提供を行い、遠隔地の大学間でデータ転送を試みるプロジェクトからはじまった。Googleの検索エンジンを核とした事業も、創業者たちがスタンフォード大学在学中に創業している。

リードユーザーという存在

そしてそれ以外にも、ノベーションには重要な担い手がいる。製品やサービスを利用する個人や小集団である。たとえばマウンテンバイクは、市販の自転車をユーザーたちの小集団が改造し、遊ぶなかで生まれた。アンチロック・ブレーキ・システムは、カーレーサーが横滑り制御のために行っていたポンピングというブレーキの踏み方から開発の手がかりを得ている。

ユーザー・イノベーションとは、こうしたユーザー発のイノベーションを指す。もちろん誰もが製品やサービスを使用しながら、イノベーションにつながるような創意工夫を行っているわけではない。そのなかにあって、社会を変え、組織に成長を生みだし、個人の自由を拡大するような創意工夫を行っている製品やサービスの先進的な使い手を、リードユーザーという。

リードユーザー×企業で生まれる社会への普及

ユーザー・イノベーションでは、イノベーションの起点はリードユーザーである。しかしどんなにすごい創意工夫であっても、個人や小集団が独自に試行を重ねているだけでは、社会に広がるイノベーションとはならない。

ユーザー・イノベーションは、ユーザー発のイノベーションだが、ユーザー・サイドで完結するわけではない。個人や小集団のアイデアを社会に普及させていくには、企業などの組織がリードユーザーの取り組みを見いだし、自社の製品やサービスの開発や改善に活かすことが欠かせない。

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