マウンテンバイクは改造と遊びから生まれた。ユーザー発のイノベーションを後押しする「博報堂」の画期的な試みとは?

2023.01.12
 

博報堂のユーザー・イノベーション・プログラム

では企業は、どのようにしてリードユーザーを見つければよいのか。博報堂は、「ユーザー・イノベーション・プログラム」という、リードユーザーからの知見を製品やサービスの開発に活用するためのマーケティング・リサーチのプログラムを開発している。

そこには、ユーザー・イノベーション研究に由来するピラミッティングという手法が採用されている。ユーザー・イノベーション・プログラムでは、テーマに沿って10~20名ほどのリードユーザーにインタビューを重ねることで、ユーザーたちの創意工夫やアイデアを収集する。しかしリードユーザーは、どこにでもいる普通のユーザーではない。数少ないリードユーザーを見つけ出すための探索の方法が課題となる。

ピラミッディングの進め方

ピラミッディングは次のように進められる。たとえば「環境負荷を減らす生活」というテーマであれば、環境問題の専門家や、環境負荷削減のための工夫をせざるを得ない人たちなどから候補者をリストアップし、インタビューを進める。続いてピラミッディングでは、インタビューを行ったリードユーザーたちに、その人が参照したり、注目したりしている先進的なリードユーザーを紹介してもらう。

こうした特別だが切実な問題については、関心を共有する人たちが相互に連絡を取り合ったり、知見を交換したりすることでネットワークができやすいことが知られている。ピラミッディングはリードユーザー間のネットワークを活用して、知見の収集を進めていく。たとえば、環境負荷を減らす先進的な生活であれば、山小屋という厳しい条件のもとで問題に取り組む経営者にインタビューを行い、下水道関連の仕事を行う企業を紹介してもらい、そこから下水研究を行う大学教員につながるといった具合である。

ユーザー・イノベーション活用のボトルネックを解消するプログラム

博報堂は、このピラミッディングを進めるための知見を蓄積している。現在では、ピラミッディングにおける最初の候補者の選択をどのように行えば、リードユーザーたちから有用な知見を効率的に得ることができるか明らかになっているという。

ユーザー・イノベーションの活用に企業が取り組むうえでのひとつのボトルネックは、リードユーザーを探索することの難しさだった。そのためにリードユーザーは社会のなかに埋もれがちだった。

しかし近年では、ユーザー・イノベーション・プログラムのような手法の開発が進んでいる。そのために、以前は活用しにくかったユーザー・イノベーションを、製品やサービスの開発に取り入れることが容易になっている。

image by: Shutterstock.com

栗木契

プロフィール栗木契くりきけい
神戸大学大学院経営学研究科教授。1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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