【ISIL人質事件】後藤さんの悲劇を受けて、日本がやるべきこと

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後藤さん殺害を受けて、直近の課題としてはパイロットが生存しているかどうかということになりますが、その結果にかかわらず日本として整理しておかなければならないことがあります。

まず第一は、事件の原因がエジプトでの安倍晋三首相の演説(1月17日)にあったのでも、通訳の問題でもなく、すべては「イスラム国」が様々な要求貫徹のカードに使うために湯川さん、後藤さんを拉致したことに帰結し、安倍演説に言いがかりをつける形で二人の殺害に至ったという点を、マスコミを通じて国民と共有することです。

事件発生後の日本政府の取り組みが合格点をクリアしていたことは、これまでにも編集後記で述べたとおりですが、今後、同様の事態に至ったときに確実に人質を生還させるための教訓を引き出すため、早急な総括と合格点をクリアした「模範解答」の作成、つまりマニュアル化が求められると思います。

第二は、自衛隊派遣の問題です。

米国などが有志連合を結成したり、国連決議に基づいて「イスラム国」への武力行使に動くとき、日本は集団安全保障の枠組みの中で自衛隊を派遣することを求められる立場です。

また、人質が日本人であるかどうかに関係なく、各国が人質救出作戦に特殊部隊を投入するとき、日本は手をこまねいていることはできません。米国やオーストラリアが個別的自衛権の行使として特殊部隊を投入することもありますが、そのとき日本は集団的自衛権の行使で行動しなければならない立場でもあります。集団安全保障による特殊部隊の投入もあるでしょう。

こんなとき、日本は延々と議論を続けることを許されている立場ではありません。日本国憲法の枠内で許される線引きをしておき、迅速に行動に移すと同時に、それを国民に説明できるよう、準備しておく必要があります。

まず陸上自衛隊の部隊については、後方支援任務が明らかな施設科(工兵)部隊などはともかく、普通科(歩兵)部隊については「普通科部隊を派遣する場合、普通科連隊の部隊装備火器の範囲から取捨選択できるものとし、戦車部隊などを伴う連隊戦闘団(RCT)以上の編成の部隊は派遣しない」としておけば、安倍首相のいう「自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことはこれからも決してありません」(昨年7月1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定後の記者会見)という言葉通りの派遣となり、しかも世界各国から一定の評価をもらえる派遣が可能になると思います。

特殊部隊のほうも、2001年9月11日の同時多発テロの直後、NATO(北大西洋条約機構)の集団的自衛権の行使としてドイツが特殊部隊をアフガニスタンに派遣した事例をモデルに、各国の特殊部隊のオペレーションをサポートする支援任務に限定するなど、派遣の仕方を明確にしておく必要があります。

特殊部隊については、内閣危機管理監のもとで派遣するよう規制を求める声がありますが、警察官僚である内閣危機管理監には自衛隊の特殊部隊をオペレーションする知見はありませんし、警察の特殊部隊を派遣する感覚で自衛隊の特殊部隊を派遣することは、自衛官の危険にもつながります。高い能力を持つ米国FBI(連邦捜査局)の人質救出チーム(HRT)でさえ、軍の特殊部隊のオペレーションから一歩引いた立場にいることを忘れてはなりません。

以上のような線引きを明確にしておけば、自衛隊による米軍など他国軍への後方支援をいつでも可能にする恒久法の制定について、公明党との合意のハードルも下がると思われます。

恒久法制定は、いつでも迅速に自衛隊を出動させる態勢によって、日本が世界の平和にとって「アテになる存在」であることを示す指標であり、そこから生まれる日本への信頼が日本の平和と安全を高めることを、日本国民は知る必要があります。

 

『NEWSを疑え!』第367号より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。
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