ただ、アメリカにも断られたように、欧州各国も戦闘機の供与はロシアを過度に刺激することとなるという理由から断り、ウクライナが敷く防衛戦略上、必要とされるレベルの戦力には届かないというジレンマに陥っているようです。
そうしている間、2月に入って頻繁に囁かれるようになったのが、「ロシアが2月中に大規模な攻撃に乗り出す可能性が高い」という見解です。
今週に入ってウクライナ国境に20万人から30万人規模のロシアの精鋭部隊が配置され、同時にミサイル戦略部隊の動きも活発になってきたという情報があります。
思惑としては、4月から5月にはウクライナに配備されると言われている欧米諸国が供与する戦車が投入される前に、ウクライナ東部・南部4州(ロシアが一方的に編入した)を完全に掌握し、今回の“特別軍事作戦”の目だった成果としたいということのようです。
今回の戦いでロシア側も多くの戦車を失っていますが、まだ余力はあるようで、質では欧米の最新鋭戦車には劣っても、その分、量で圧倒したいと考えているようで、戦車部隊もまた国境地帯に集結しています。
空軍の空からのサポートが得られるかは不透明な状況のようですが、雪解けを待たずに地上戦のスタートが切られる可能性が高まっているようです。
それに加えて、以前よりお話ししているNATOからウクライナへの供給を断ち、ウクライナを孤立させるために、ポーランド国境地域にあるリビウ周辺、特に戦車などを輸送する鉄道網へのミサイル攻撃を徹底する作戦を実行すると言われています。
そうすることで以前より行われているウクライナの生活の破壊とそれによる厭戦気分の創出という戦略が進められ、NATO各国からの戦車が投入されるまでに東部・南部の支配を確立できたら、ロシア側に有利な条件で停戦協議に持ち込めるという算段があるようです。
それがうまく行く保証はありませんが、ウクライナ全土を掌握することがほぼ不可能な中、ロシアが追求できる“勝ち”の戦略はこれしかないのではないかと考えます。
ウクライナから欧米諸国への戦闘機の供与要請はそれを理解したうえで、それを阻止するための手段のはずですが、戦闘機を供与することでこの戦争がウクライナ外に広がり、ロシアとNATOとの対決を生み出す戦闘のエスカレーションに進むことを恐れたNATO諸国は二の足を踏んでいるのが実情です。
ただNATOの腹の中には別の思惑もあるようです。現時点では、まだ核のボタンに手をかけていないロシアを過度に刺激せず、何とか落とし前をつけたいと考え、ロシアとの水面下での協議が進められています。ここではまたウクライナは蚊帳の外に置かれているという悲しい状況なのですが、ロシアを弱体化し、凶暴性をしばらく閉じ込めた上で、ロシアを活かした新しい態勢づくりを画策しているようです。首謀者は英国と米国と思われますが、米国は現在、国内政治の対立が顕在化しているため、対ウクライナ支援を表明しつつも実際にコミットメントを深めることはできないため、この計画の主導権は英国に渡しているようです。
ただフランスとドイツは上記のようなアレンジメントを100%支持はしておらず、米英の出方によっては対ロシア包囲網がさらに綻ぶ可能性も見えてきました。今回に関してはさすがにないとは思いますが、元々、フランスもドイツもロシアに近い関係があるため、自らの存在を国際社会に示すためにロシアに対する非難と制裁の網を緩めるようなことが起こってしまったら、今回のウクライナ戦争の形勢は一気に変わることになってしまうかもしれません。
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