コロナ禍の影響で客足がすっかり遠のいてしまった業界のひとつに、百貨店・デパートがあります。すでにECサイトが普及している現代において、百貨店はその役割を終えているとされてきましたが、コロナ禍が追い打ちをかけた形となりました。そんな百貨店の新たな集客手法として「アート」が注目を集めていると紹介するのは、メルマガ『理央 周の売れる仕組み創造ラボ【Marketing Report】』の著者でMBAホルダーの理央 周さん。今回、理央さんが現代アートに注力する百貨店の取り組みと「顧客作り」の 工夫を解説しています。
百貨店はなぜ、アートを扱うのか?集客に必要な“顧客の行く理由”の作り方
ECの台頭からの浸透、コロナ禍による外出の自粛や規制など、ここ10年以上、リアル店舗を持つ小売業にとって、向かい風が吹いていました。
中でも厳しい環境に置かれたのが、「百貨店」、デパートです。
“いろいろなもの”という百貨が、百貨店という名称の由来だそうです。
昭和から平成にかけては、1箇所に多くのカテゴリーの商品があり、そこに行けば「なんでも買える」という便利さが最大の特徴でした。
しかし、ECの普及後は、ネット上でなんでも買うことができるようになり、百貨店の優位性が薄れてきました。
そこで、ネット通販との融合を試みたり、家電量販店のフロアを作ったり、回遊性を高めるために、同じフロアで、婦人服と雑貨と食品を販売したりと、さまざまな企業努力をしています。
そんな中で、日経MJに興味深い記事が載っていました(23年2月112日号)。記事のタイトルは、「百貨店、『デパ・アート』で顧客創る 20~40代に的」。手の届く価格帯の、現代アートに注力することで、この世代の新富裕層にアピールをする、という狙いです。
記事には多くの事例も載っています。
大丸松坂屋は、現代アートに特化したサイト「アートヴィラ」を開設し、アーティストのみでなく、経営者や建築家も作品を出品しています。また、DJや映画イベントを仕込んだりと、販売以外の分野も仕掛けることで、話題性を作っています。
そごう・西武では、作家発掘に力を入れています。池袋店では、20代社員がメイン担当者になり、アート売り場を作り、SNSなどでアーティストを発掘し、渋谷店では、「シブヤスタイル」というイベントを開催、若手作家の登竜門的な存在になっているとのことです。
これら一連の取り組みで興味深いのは、多くが「一点もの」を販売する、という点です。
考えてみると、アートを見た上で買う時には、ギャラリーに行くのが一般的です。
そうなると、テーマも限られているし、ギャラリーオーナーの個性に準じるものが、メインになることもあります。
しかし、百貨店での買い物、となるとセレンディピティ的な、「出会い」を楽しむことができそうです。
また、アーティスト発掘系のイベントや、20代担当者のSNSでの発信による、青田買いに近い、若手作家の作品との出会いは、売れる前のアイドルを贔屓にする、ファンの心理と近いように感じます。
こうなると、顧客は“オシ”の作家ものを、実際に見て、気に入れば買う、というような楽しみ方や買い方を、顧客に提供できるようになります。
この記事の著者・理央 周さんのメルマガ
アートを扱う百貨店は「顧客の来店理由」をはっきりさせることがカギ