タスク管理の捉え方で判る「自己啓発セミナー」に引っかかりやすい人の特徴

 

■危険な徴候。こんなタイプが自己啓発セミナーに引っかかる

そうした“高さ”における「やることの整理」は、目の前にある情報(あるいは頭に浮かんでいる情報)が、はたして自分の「やること」なのかどうかを考える作業を意味します。「やること」にするのか、しないのか。それを決める行いとしての「整理」です。

この「やること」の整理は、ある意味できわめて簡単であり、別の意味できわめて難しくあります。

まず「難しさ」から考えていきましょう。何がどう難しいのか。

タスクリスト的なレベルの「やること」の整理は、パズルめいた知的作業となります。手持ちの時間と優先順位を考慮して、まっさきに着手するものを選ぶ。難しいのは難しいですが、「フレーム」(フレーム問題のフレームです)が決まっている中での難しさに留まります。

* もちろん、巡回セールスマン問題的な難しさまで発展してしまうこともありえますが。

一方で、今考えている「やること」の整理は、まさにその「フレーム」を決めるような行為です。自分にとって一番大切なことは何なのか、この人生を通して自分は何を為すのか(『夜と霧』の著者ヴィクトール・フランクルの言葉を借りれば、「私はこの人生に何を与えるのか」)は、パズルを解くのとはかなり違っています。方程式もなければ、効率的なアルゴリズムもありません。ヒントもなければ、アドバイザーもいないのです。

自分の責任において、自分で決めなければなりません。

もし、タスク管理をタスクリスト的なレベルだけで捉えていたら、この問題は手に負えないでしょう。その結果、あたかもこのレベルの問題すらもパズルであるかのような言説(いわゆる自己啓発、セミナー系言説)に抗えなくなります。危険な兆候です。

■「自分にとって一番大切なことは何なのか?」という問いに正解はあるか

上記のようにこのレベルの問題はきわめて「難しい」のですが、光明もあります。それは「正解」なんてない、ということです。

自分にとって一番大切なことは何なのかは、他の誰にもわからないでしょうし、決めることもできないでしょう。もっと言えば、当人ですらもわからない可能性があります(これが問題の「難しさ」を形成しているわけです)。

つまり、あらかじめ存在する「正解」などないのです。もし、適切な学習の機会を得られずに、「この世界の問題にはあからじめ正解が決まっているのだ」という認識をお持ちの方は、少し頭を揺さぶった方がいいでしょう。むしろこの世界の問題の大半は正解などなく、私たちの目の前に「問題」として提示されるものはかなり特殊なものなのだ、と。

よって、

「自分にとって一番大切なことは何なのか?」

という疑問は正解がありません。むしろ、えいやと自分が決めたら、それが「答え」になります。どんなものを選ぼうとも、それが「答え」になるのです。

何かを決めたら、それが「答え」になる。

別の視点を取れば、この問題の「難しさ」は要求される知的な能力の大きさに由来するのではなく、「決める」という行為にかかる心理的な負荷の高さに由来している、ということです。何かを「決める」ことが難しいのです。

パズル的な難しさであれば、アルゴリズム的なサポートが得られる未来は描けるでしょう。しかし、こちらの難しさはそうはいきません。AIによるサポートが存在する社会を背景にした『PSYCHO-PASS』という作品はそこにあるディストピアを見事に描いていますが、「決める」ことを避けては大切なものを失ってしまうのでしょう。それは「タスク管理」というノウハウ分野ですら言えることです。

決めることは難しい。でも、決めてしまえばそれが「答え」になる。あとはその答えと共に生きていく。言い換えれば、その答えが自分にとっての「フレーム」になる。そういう関係があります。

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