タスク管理の捉え方で判る「自己啓発セミナー」に引っかかりやすい人の特徴

 

■「何でもできる」と謳うノウハウものに隠されている欺瞞

「自分にとって一番大切なことは何なのか?」

この問いの難しさがパズル的な難しさと混同されてしまうのは、表現に依るところがあるかもしれません。たとえば、こう言い換えたらどうでしょうか。

「あなたは、何を一番大切にしたいと思っていますか?」

「大切にすることについて、どのような意志をお持ちですか?」

問われているのはパラメータではありません。言い換えれば、「あなた」というオブジェクトがあり、そのオブジェクトが所有するパラメータにおいて「優先順位」という属性の値が一番大きいものを問われているわけではないのです。

そうではなく、どんな「意志」を持っているのか。そう問われています。そう問われているからこそ、難しいのです。それは何かを選ぶことだからであり、それはつまりそれ以外を捨てることだからです。

この難しさについては『限りある時間の使い方』という本でも検討されています。現代社会では、個人に選択肢を与えることが是とされていて、それはたしかに何も選択肢がない状態においては正しいと言えるでしょう。しかし、「決めること・捨てること」をしたくない、という状況において加算的に選択肢を与えることはまったくよくない結果をもたらします。「捨てなければならない」という現実的な制約を見失ってしまうからです。

ある種の「ノウハウ」に欺瞞があるのもこの点です。たしかにそうしたノウハウは、パズル的な難しさをクリアする助けにはなってくれます。しかし、そうした助けがあってすら、私たちは何かを選び、何かを捨てなければなりません。しかし、ノウハウは自分を売り込むために「何でもできるんです。やることををすべてやれるんです」と謳います。そこでは明瞭な隠蔽が行われているのです。

■何かを決めることとは、何かを捨てること

それがどんな決定であっても構いません。なにせ「正解」はないのですから。

自分はこれを大切にする。そう決めること。それができれば、タスク管理の「フレーム」が定まり、いろいろなものが回りはじめます。

もちろんそのことは、社会的成功を約束するものではありません。むしろ僅かに生きづらさが増えることすらあるでしょう。何かを決めることとは、何かを捨てることなのですから。

でも、そうしないと私たちの「やること」は際限なく増えていき、私は自分にとって何が大切なのかを決められないままずっと過ごすことになってしまいます。

もしノウハウが人が生きることの助けを目指すならば、これは本末転倒なばかりか、有害なものにすらなってしまうでしょう。

以上のように「やることの整理」一つとっても、簡易に片づくレベルと“人生論”に結びついてしまうやっかいなレベルが存在しています。おそらくは、その二つの領域が「同じ言葉」によって表現され、片方からもう片方への“道”がつながっている、というのがポイントなのでしょう。真剣に取り組めば取り組むほど、“実務”の話に留まっていられないわけです。

個人的にはそういう「接続感」を大切にしていきたいと考えています──(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2022年2月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、2月分のバックナンバーをお求め下さい。

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1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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