個人情報の流出は必至か。不安しかない「マイナ保険証」をゴリ押しする政府の無責任

 

マイナポータル利用規約に記載された驚きの「免責事項」

マイナンバーの中核システムは「情報提供ネットワークシステム」といい、その設計・開発を行っているのはNTTコミュニケーションズとNTTデータ、富士通、NEC、日立製作所のコンソーシアムである。

そのうちNTTデータは、医療情報をビッグデータとして二次利用する業務に携わっている。医療機関の電子カルテデータを含む実名の医療情報の提供を受け、それらを匿名化した情報を、研究機関や自治体、製薬企業などへ有料で提供する政府認定の事業だ。つまり、全国医療情報プラットフォームの先駆けのようなことをすでにやっているのである。

ところが昨年、患者の医療情報を利活用するにあたっては、あらかじめ本人に通知することが必須なのに、プログラムの不具合により、通知しないまま約9万5,000人分の患者データがデータベースに混入してしまう不手際があった。

今後、マイナ保険証を基盤とした医療情報の利活用が本格化すれば、個人情報にかかわるさまざまな問題が噴出してくる可能性がある。その場合、政府は責任をとるつもりがあるのだろうか。

あるどころか、マイナポータル利用規約には免責事項として、「マイナポータルの利用に当たり、利用者本人又は第三者が被った損害について、デジタル庁の故意又は重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わないものとします」と書かれているのである。

そのくせ政府はメリットばかりをあげてマイナ保険証への移行を急がせる。例えば「自分の健康情報を統合的に管理することができる」「重複する投薬を回避した適切な処方を受けることができる」「簡単に医療費控除申請の手続きができる」…などだ。

このようなメリットがあるにしても、どうしても必要なものかとなると疑問が残る。「重複する投薬を回避した適切な処方」というが、「お薬手帳」があれば十分だろう。

便利なデジタル社会に移行するのはいいが、そのさい肝心なのは、システムへの信頼性だ。

たとえば、デジタル先進国のエストニアでは、セキュリティサーバーにより、日本のマイナンバーにあたる国民ID番号とIDカードを誰がいつ利用し、どのような意思決定が行われたかなどを復元できるため、そこから個人情報が盗み取られたり、悪用されたりする心配のないシステムになっている。

日本政府もこの20数年、デジタル化への意欲だけは示してきた。2001年に、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)を設置し「5年以内に世界最先端のIT国家になる」とぶち上げた。その結果、ブロードバンドインフラについては高い水準に達したが、「世界最先端のIT国家」にはほど遠い。各省がバラバラにIT投資、施策を進めたためである。その背景には、省庁や族議員とつながっている経済界の既得権益がある。

やがて、健康保険証を原則として廃止し「マイナ保険証」に一本化する法案の国会審議がはじまるだろう。政府が責任をとらないというマイナポータルに、本当に信頼を置けるのか。どこまで突き詰めた議論ができるのか。心配は募るばかりだ。

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