「プーチンを守る」と決めた習近平。隣国が“戦争の仲介役”で得る大きな果実

 

中ロ間で交わされた「決して公表されないdeals」の内容

ちなみにロシアによるウクライナ侵攻以降、ゼレンスキー大統領からの再三の協議依頼をことごとく無視し、やっとそれに答えたのが今年4月20日に入ってからで、それは中国がロシアとウクライナの停戦の仲介に名乗りを上げてから1か月以上経ってからのことで、それはまた習近平国家主席がモスクワ訪問してプーチン大統領と3日間に及ぶ協議をしてから1か月後の出来事であったことからも、中国の立ち位置が透けて見えるかと思います。

以前、ウクライナからの訪問要請を受けて、習近平国家主席がどのように対応するのか注目すると書きましたが、進むも退くもリスクを負うことになるキーウ訪問を見送り、1時間に及ぶ電話会談に切り替えたのは、仲介役として取るべき最低ラインのコミットメントを行ったに過ぎないと考えられます。

このような若干冷たい対応になった理由はいくつか考えられます。1つは、中国が仲介の意思を表明し、停戦合意案を提示した際、評価はしたものの、公然と中国に要求と条件を突き付けたゼレンスキー大統領の姿勢に反発したことがあります。

2つ目は、それでも中国の仲介を受け入れる用意があるのか分からないウクライナを警戒し、ロシアを除く全方面にいい顔をするゼレンスキー大統領の真意を探る狙いがあったものと考えられます。

3つ目は、中国の仲介に対する国際社会の“本当の”評価と反応を見極めるために、ゼレンスキー大統領と習近平国家主席の直接の協議に対する可能性を棚上げにしておき、ぎりぎりのタイミングで電話会談に切り替えて、一応メンツは保ったと考えられることです。

いずれにせよ、仲介のオファーをしつつ、明らかにロシア寄りな習近平国家主席の思惑が見えてきます。

ロシアへの明らかな肩入れは、中国にも共通する欧米への反発が存在しますが、本来中立であるべきとされる仲介者が明らかにロシア寄りの姿勢を崩さないのには、3月のモスクワでの首脳会談時に交わされた“決して公表されないdeals”の存在があると思われます。

その一例は【中国に対するロシアのウラン濃縮技術とノウハウの提供】と【ウラニウムのロシアから中国への提供】の約束です。

表向きは脱炭素に向けた取り組みの強化と言っていますが、実際には中国人民解放軍の核戦力の迅速な拡大に欠かせない(でも中国がキャパシティーを十分に持っていない)ウラン濃縮技術と、ウラン鉱石の安定的な供給についての密約を両首脳間で結んだという分析があり、これは高い確率で信用できると思われます。

別の例は、ロシアが持つ様々なエネルギー権益に対する中国のアクセス権の保証ではないかと思います。

ちょうど今週に入って、中国の艦船がサハリンIとIIの域内にはいってきて操業するという事態が起こっていますが、中国に対する安定的・持続的な天然ガスの供給という約束に基づく行為だと思われます。

3つ目の例は、第3国を経由した中国からロシアへの軍事物資の共有です。中国からロシアへの直接的な供給は、NATOとの軋轢を強め、中国がロシア・ウクライナ戦争に軍事的に巻き込まれる恐れと、対ロシア制裁の煽りを食って中国に対する経済制裁が発動される恐れが生じますが、中ロと友好的な関係もしくはピュアに経済的な関係がある第3国を経由しての供給となると、なかなか追跡が難しくなると言われています。

もともとKGB時代から行われ、FSBに引き継がれている同様の手法は、実質的な供給者などが割り出せない仕組みになっており、今回も中国と共にこのスキームを活用し、同時に、インドなどのグローバル・サウスの国々をうまく取り込んで行うという仕組みの存在に対する疑念があり、それが中ロをしっかりと結びつけていると思われます。

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