「プーチンを守る」と決めた習近平。隣国が“戦争の仲介役”で得る大きな果実

 

影響圏を中国本土からスーダンに至るまで拡げる習近平

加えてすでに隣国エチオピアを中心にHorn of Africa (アフリカの角)一帯に勢力圏を築いていることを活かして、スーダンとエチオピアの不仲の調停にも乗り出すことで、当該地域からアメリカを追い出して、一気に権益を掌握するという狙い・戦略も透けて見えます。

すでにジブチに港を確保し、ジブチとエチオピアのアディスアベバを繋ぐ鉄道を敷設することで物流網を独占していますし、アメリカCIAがおくblack site(注:ブッシュ政権以降のGlobal War on Terrorの重要な拠点としてエチオピアに置かれていると言われており、中東・北アフリカを監視しているもの)に対しても圧力をかけることで、アメリカに監視される対象国の支持も得て、一気に地域に影響力を広めるというgrand strategyがあるようです。

そうすることで、先に調停し、関係修復をお膳立てしたサウジアラビア王国(実はエチオピアとジブチの対岸)からイランに至るアラビア半島にまで影響を拡げ、その影響圏が中国本土からスーダンにまで至ることになるという状況です。

そのど真ん中にインドが位置し、中国に対して警戒心を持ちつつも依存度を高めるASEANが存在しますが、そのすべての国々ですでにアメリカの影響力が低下していることから、程度の強弱はあるものの、一つの緩い勢力圏が成り立つと言えるかもしれません(これに横やりを入れられるのは、実は日本“だけ”なのですが、果たしてそれに気づいているのでしょうか)。

ただこの勢力圏の拡大と確保は、まだ経済的な側面が強いように思われ、習近平体制下で広げてきた中国の拡大パターンに沿っていると考えられます。

しかし、目をロシアとウクライナ情勢への介入に移すと、違った景色が見えてきます。

昨年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻までは、中国とウクライナの関係は非常に良好だったと思われます。

中国の初めての空母・遼寧は、元々旧ソ連の空母をベースにしており、ウクライナ所属の空母であったことから、中国がウクライナから購入したものです。

その際、中国の新疆ウイグル自治区をはじめとする少数民族に対する人権侵害への抗議の一環として、欧米諸国はウクライナにこの売却を思いとどまるように圧力をかけましたが、ウクライナは「約束は守らないといけない」と圧力に屈せず、予定通りに中国に空母の引き渡しに応じたことで、義を重んじる中国の心をつかみ、その後、中国資本によるウクライナへの投資拡大につながりました。

つまりウクライナは中国にとっては“特別な国”だったはずです。

しかし、その状況はロシアによるウクライナ侵攻を受けて、変化したように思われます。

中国は表面的にはロシアの侵攻に対して懸念は示すものの、本格的な抗議にはつながらず、ロシア寄りの態度を貫き、国連安全保障理事会をはじめ、さまざまな外交フロントでロシアと共同戦線を張り、ウクライナの後ろ盾となり、ロシア包囲網を固めた欧米諸国とその仲間たちに対峙する姿勢を明確にしました。

欧米諸国とその仲間たちから幾度となく“ロシアへの支援”を止めるように圧力をかけられても耳を貸さず、べったりではないにせよ、ロシアを支持する姿勢を貫いています。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けた国際社会の激しい反応を横目に見つつ、いずれ来ると予想されている中国による台湾侵攻を実行に移した際に、どのような反応が予測されるかを見ながら、表立っては目立たないように、まさにステルス状態の外交を行ってきました。

ただその間、プーチン大統領とは数十回、リモート形式ではありますが、連絡を密に取り合い、ロシアと中国が進めてきた国家資本主義陣営の拡大を着々と進めるべく協力を貫いてきました。

その間、明らかに両国の力関係・バランスに変化が訪れて、中国優位が鮮明になってきましたが、ジレンマは抱きつつも、中国はロシア側の仲間であり続けています。

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