中国にハメられた欧州、“仲間はずれ”の日本。G7広島サミット「共同声明」が炙り出したもの

smd20230526
 

テロ等の大きな混乱もなく、無事に全日程を終えたG7広島サミット。国内外でさまざまな評価がなされていますが、国際社会を知り尽くす現役のネゴシエイターはどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、主要参加国の「サミットにおける成績」を評定。さらにゼレンスキー大統領の緊急訪日が招いた事態について解説しています。

国際情勢の現実と事実。G7広島サミットがあぶり出した「自国ファースト」

「我々はあくまでも国益に沿って行動し、決断している」

この発言はG7サミットに招待されていたグローバルサウスのリーダーを自認するインドのモディ首相と随行していたジャイシャンカル外相が、メディアからの「ロシアに対しても理解を示す国が、反ロシア・中国の代表であるG7の会合に参加してどう感じるか?」と尋ねられた際の回答です。

この記者からの質問のクオリティについてはあえてコメントしませんが、この「我が国は国益に沿った行動・決定をしている」という回答は、国際情勢における現実と真実を物語っているように思われます。

協調の輪に加わるのも、あえて分断の真ん中に位置するのもすべてそれぞれの国の国益の最大化という目的に即した行動と言えます。

先の発言はインドによるものですが、それはG7各国それぞれにも当てはまる立場・マインドであると考えますし、戦時中にもかかわらず支援拡大のために世界各国をめぐるウクライナのゼレンスキー大統領にとっても同じだと思われます。

経済大国、主要国などともよばれるG7諸国ですので、本来は自国の国益のみならず、noblesse oblige的な観点からの行動が期待されるところですが、実際にはやはり自国ファーストでの言動が目立つように思います。

順番に見ていきましょう。

「約束通り」広島を訪問せざるを得なかったバイデン

まずアメリカですが、今回のG7には「自由主義社会のリーダーとしての立ち位置を再確認・再アピールし、同盟国の安全に対してコミットすることを示す」という目的があります。

ロシアによるウクライナ侵攻を機に「反ロシア包囲網」を形成し、すでに展開中のクアッドなどの反中国包囲網と合わせ、アメリカのプレゼンスを高めようという戦略を取りましたが、“包囲網”の形成は思っていたほどにうまく行っていません。

イラクやアフガニスタンを20年余りの駐留の結果、滅茶苦茶にして放棄し、中東やアフリカへのコミットメントを減少させる方針転換を行ってきた結果、アメリカが去った後の空白にロシアと中国が入り込み、徐々に国家資本主義体制の勢力圏を拡げるという事態を招きました。

その様子を見て、かつてのアメリカ派の国々は「有事の際に本当にアメリカは我々を守ってくれるのだろうか?」という疑念を大きくしていったという現状が生まれています。

元々上から目線でものを言い、各国の内政にも干渉してきた欧米諸国の態度に対する反発と相まって、現在、グローバルサウスと総称される国々におけるアメリカ離れが進み、中国やロシアへの接近が顕著になるという事態になっています。

アメリカと同盟関係にあり、核の傘に守られている日本や韓国、欧州各国も、イラクやアフガニスタンの情勢において顕著となったアメリカ政府の内向き傾向を目の当たりにして「アメリカは本当に約束通りに私たちを守るのか?」という懸念が生じているように見えます。

それを打ち消すために、国内における財政問題の解決が急がれる事態にも関わらず、大統領自らが“約束通りに”広島を訪問するという決定に至ったと考えます。

「アメリカは核の傘を含む同盟国の防衛にコミットする」

「法の支配に基づく国際秩序の維持にコミットする」

「コロナのパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻を受けて生じている国際経済の混乱への対応にコミットする」

というように、矢継ぎ早に“アメリカの国際社会への復帰”とでも呼べるような“コミットメントの連発”を行っているのは、実はリーダーとしてのアメリカの立場を守り、アメリカに保障されている世界各地へのアクセスを引き続き確保し、その権益を守るという“国益”が絡んでいると見ることができます。

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