グローバルサウスの国々がG7に抱いた違和感
では、今回、G7として関係の深化を目指していたグローバルサウスの国々とのパートナーシップはどうだったでしょうか?
「G7、自由主義社会の理念を押し付けるのは避けなければならない」と会議前に岸田総理も発言していましたが、実際には、インド政府やブラジル政府曰く、大いに違和感を抱く内容だったと言われています。
G7の価値観の押し付けの度合いは分かりませんが、インドとブラジルが感じたのは、変わらない上から目線の発言と要求であり、受け入れがたいものであったようです。
それを決定的にしたのが、実はゼレンスキー大統領の緊急訪日とG7拡大会合への参加という意見もあります。
ウクライナ問題に対するG7諸国の対ロ包囲網という踏み絵を突き付け、それをゼレンスキー大統領とのバイ会談という形で設定されたことに反発を覚えた国々が多く(韓国とオーストラリアを除き)、ブラジルのルラ大統領に至っては、表向きはスケジュール上の問題としておりますが、ゼレンスキー大統領とのバイ会談を行わない決定をしています。
もしかしたら直前にロシアのラブロフ外相のブラジル訪問が効いているのかもしれませんが、広島でルラ大統領に同行していたブラジル外務省の友人によると、二国間会談を打診されたのは突然であり、かつG7のサポートを笠に着たようなウクライナの態度に嫌気がさしたとのことです。
今回のサミットに招待された韓国やコモロ、クック諸島などについては比較的満足のいく会合だったようですが、インドやブラジルのように、G7が口説き落としたいと考えていたグローバルサウスのリーダー国からは反発を強められる結果になったようです。
安堵感とともに残るもやもやとした感情
これまでいろいろなアングルから今回のサミットを見てみましたが、最後に「そして日本はこのG7を成功と呼ぶことが出来るか?」という点について見てみたいと思います。
私も関わっている核兵器なき世界の実現という今サミットの主要テーマについては、一定の前進を見ることが出来ると思います。
昨年に岸田総理が掲げた広島・アクションプランは、今回、広島ビジョンという形で合意され、年限こそ定められなかったものの、G7が核兵器廃絶に向けた方向性を支持することが表明されました。それをどう具体化するかは今後の議論に委ねられることとなりましたが、仮に岸田総理がどこかで退陣するようなことになっても、後進のリーダーが日本が堅持する政策の方向性として継続してくれることを願います。
ではメディアでも賛否両論ある“ゼレンスキー大統領の参加”についてはどうでしょうか。個人的な評価は避けますが、G7によるロシアの蛮行への抗議とウクライナ支援の方向性で一致したという点では評価できるのだと思います。
ただ、G7サミットに政治生命をかけ、かつ出身地広島でのサミットで“核なき世界への覚悟”を示すことにこだわっていた岸田総理にとっては、その議論の時間を削ってでもゼレンスキー大統領にスポットライトを譲ることは、果たして日本の国益に資するほどのものだったかは疑問です。
もしかしたら、あまり日本では文化的になじみがないと言われるnoblesse obligeをついに体現しようとしたのでしょうか?それとも国益よりも、G7との連帯を重要視したのでしょうか?
その答えを知る由もありませんが、無事にサミットを終えることが出来た安堵感とともに、何とも言えないもやもやが残っていることを申し上げておきたいと思います。
サミットに関わられた皆様、本当にお疲れさまでした。
以上、国際情勢の裏側でした。
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