中国にハメられた欧州、“仲間はずれ”の日本。G7広島サミット「共同声明」が炙り出したもの

 

サミットで確実に国益に足した動きを見せたマクロン

ではフランス・ドイツ・イタリア、そして欧州委員会の欧州勢はどうでしょうか?

欧州の影響力が低下していないことを示すことが出来たのが成果と言えるかと思います。

サミット前にウクライナのゼレンスキー大統領がフランス、イタリア、ドイツ、英国、ブリュッセルを電撃訪問し、そこでウクライナによる反転攻勢本格化に向けた追加支援が表明されたことは記憶に新しいですが、その結果、広島のサミットにおいて欧州各国が挙ってアメリカを説得し、F16の供与を容認する方向に後押ししたと言われています。

一応、欧米諸国間で懸念されていたウクライナ支援の温度差は、広島において埋められ、G7(NATO)が一枚岩でのウクライナへの支援が印象付けられました。特にフランスにとっては今回の広島サミットにかかるアレンジメントと演出は、ゼレンスキー大統領の電撃参加の際にフランス政府専用機でサウジアラビアのジッダから広島に運んだということで、大成功に終わったと言えます。

ただこれも対外的なアピールという点以上に、フランス国内で高まるマクロン政権への非難をかわすための材料と言うことが出来、確実に“国益”に即した動きであると言えます。

ロシア・ウクライナ情勢においては、双方に話が出来る特異な立場をアピールしてきたマクロン大統領ですが、支援の規模と発言力という点で、良くも悪くもアメリカに主役の座を奪われていたというイメージが国内外で強く、それを今回、ゼレンスキー大統領に寄り添う姿を見せることで払しょくしにかかったということができるでしょう。

中国がG7前に仕掛けた懐柔策に見事嵌った欧州各国

しかし、G7の内容が拡大する中国の脅威に対する対応となると、少し話が違ってくるように見えます。

ゼレンスキー大統領同様、中国もG7を前にして欧州各国に対して外交攻勢をかけています。秦剛外相をフランスとドイツ、ノルウェーに派遣した話は先週号でもいたしましたが、その際に、中国との交易の再開と拡大を餌に欧州各国への揺さぶりをかけています。

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そして、サミットと並行する時期にロシアとウクライナの和平外交を行う李輝大使が欧州各国を訪れ、ウクライナ情勢の鎮静化についての最新情報を提供していますが、その際にポストウクライナ情勢の復興についての協力を呼び掛けているようです。

言い換えると、経済的な関係強化および回復と、ウクライナにおける戦後復興への共同参画を持ち掛けて、欧州内に対中温度差を作り(実際には英国とフランス、ドイツ、イタリア、そして欧州委員会の引き離し)、G7が挙って中国に対してより厳しい制裁や包囲網を狭めるといった行為に出ることを牽制すべく、欧州懐柔策を仕掛けているようです。

欧州各国にとって、ロシア経済はエネルギーと穀物、そして金属というコモディティを通じた結びつきが強いと言われており、自ら課した対ロ経済制裁の悪影響を見事に受けていますが、それが中国相手となると、対ロシア制裁の比ではないショックになることから、中国に対する強硬手段には、アメリカやカナダに比べると、二の足を踏む傾向が強いと言えます。

そこを中国が逆手に取り、欧米間の結束にひびを入れようとしていると思われますが、今回のG7サミットの成果文書を見ると、中国の脅威に対する対応の書きぶりはさほど厳しいものではないように見え、中国の戦略に欧州各国がはまっている様子が覗えます。

ゆえに【中国の脅威に対して、G7として一枚岩で真っ向から対抗する】ことが当初の獲得目標だったとしたら、G7は失敗だったとまでは言えないと思いますが、G7加盟国間の対中温度差が際立ち、より国際社会の分断がクローズアップされたのではないでしょうか。

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