対抗手段に出る習近平。G7の真裏で中国が開催する「もう一つのサミット」

Chinese,President,Xi,Jinping,Addresses,Guests,During,A,Gift,Handover
 

ウクライナ戦争の調停をはじめ、世界の紛争解決のため本腰を入れ始めたように見える中国。しかしそこにはただならぬ「思惑」が存在しているようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、習近平政権が和平外交の先に見据えている「目的」を解説。その達成のため、中国がG7広島サミットの裏で展開する対抗手段についても誌面で紹介しています。

透けて見える習近平の意図。なぜ中国は和平外交を展開するのか

「李輝大使が中国政府ユーラシア事務特別代表になったのか…」

5月16日と17日に李元駐ロシア中国大使がキエフでクレバ外相との会談に臨んだ映像を見て思わずつぶやいた言葉です。

李輝氏は10年以上にわたり、中国政府外交部では、駐米大使・駐英大使、そして駐日大使と並ぶエース級が就任する駐ロシア大使を務め、2019年の退任時には、李輝大使のロシアへの献身と敬愛に対してプーチン大統領本人から友誼勲章を直接授与されるほど、ロシア政治のトップにも食い込んでいた人物です。

李輝大使は確か旧ソ連時代も含めると17年ほどロシアに滞在し、ロシア語に堪能であるだけでなく、ロシア文化にも造詣が深く、ゆえにプーチン大統領からも「ロシアの真の友人」との評価を得たと言われています。

今ではもう70歳を超え、確か外交官は退官されていますが、現役を退かれた後も私が属する調停グループにもアドバイスをいただく非常にシャープな人物です。ただ退官後は「ロシア文化・文学についての本でも書くかな」と仰っていたので、悠々自適な生活を送っておられるのかと思っていたら、習近平体制下での“和平外交”の先頭に立つ一人として表舞台に戻ってきました。

この特使の派遣については、習近平国家主席とゼレンスキー大統領が行った4月26日の電話会談の中で中国側がオファーし、ウクライナ側が受け入れることを決めたものですが、私自身、中国政府は一体誰をこの特使に充てるのかなと非常に関心を持っていました。

その理由は【誰が特使になるかによって、習近平国家主席と中国政府がどこまでロシア・ウクライナ戦争の停戦仲介と平和的な解決に本気なのかを探る指標になる】と考えていたからです。

聞くところによると、4月26日の習近平国家主席とゼレンスキー大統領との電話会談後、プーチン大統領はこの“特使派遣”合意に対して不快感を示し、不安を抱いていたそうですが、この李輝氏がその特使に就任することを知ってかなり喜び安心したそうです。

その理由はすでにお話ししましたが、ロシアに対する深い敬愛と憧憬を抱く李氏の特使任命は、中国の平和外交・和平外交の立ち位置が明らかにロシア寄りの調停になるものと期待できるからです。

そのことは、キーウで会談したクレバ外相も重々承知で、李輝特使に対して「ウクライナは領土の分割や喪失、そして戦争の凍結には応じない」と釘を刺し、「領土の一体性の保持がマストであり、黒海を通じた穀物輸出の再開と安全の保障、そして核兵器の安全保障について、中国の協力をお願いしたい」と要請し、中国が中立的な観点から調停を行うことを要請したようです。

このクレバ外相の言葉を少しだけ深読みすれば「ウクライナ政府は、中国政府が行う和平外交の中立性を信頼していない」というメッセージを、李氏を通じて、中国政府に伝えたのではないかと思います。

ただ李氏もクレバ外相も時折通訳を介することなく、ロシア語で直接に対話を行い、かなり込み入った内容の話までしたようで、その際に、李輝特使はウクライナ側の“政治的解決に向けた条件”を事細やかに聴取したようです。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 対抗手段に出る習近平。G7の真裏で中国が開催する「もう一つのサミット」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け