対抗手段に出る習近平。G7の真裏で中国が開催する「もう一つのサミット」

 

中国が和平外交の展開の先に見据えている最大目的

しかし、理由は分かりませんが、どうもその内容については、訪欧中のゼレンスキー大統領からも英国・フランス・イタリア・ドイツの首脳には伝えられていないようで、それがまたG7欧州各国の懸念を生んでいるようです。

G7サミットに出発する前の欧州各国の首脳を訪問して、さらなる軍事支援を要請して獲得してきたゼレンスキー大統領ですが、クレバ外相と李輝特使の会談内容や、ウクライナ側が中国に伝えたその“政治的解決に向けた条件”を欧州各国首脳には明かさなかったのは、もしかしたら彼の(ウクライナの)“戦略“、つまり欧州各国からさらなる支援を供与させるための演技なのではないかとさえ訝ってしまいます。

「もしかしたら、ゼレンスキー大統領とウクライナは私たちに支援を要請しつつ、中国とも密接に連携していて、支援を得て、両者間で天秤にかけているのではないか」といった疑念と懸念の声が欧州各国から上がっていることは、意外と報じられていません。

そしてここで中国、そして李特使が非常に巧みだと考えるのは、今回の李特使の訪問日程の組み方です。

先述の通り、5月16日と17日はキーフを訪問し、クレバ外相をはじめ、政府の要人との協議を行い、19日にはその足で隣国ポーランドの首都ワルシャワを訪れる予定になっています。

ポーランドと言えば、NATOの加盟国であり、かつウクライナに対する物資輸送の主要なポイント・基地となっています。自国に対してウクライナ戦争の火の粉が及ぶことを恐れ、ウクライナ支援のためにドイツ製最新鋭戦車のレオパルト2の供与や戦闘機の供与まで申し出るほど、ウクライナサイドについていると思われる国ですが、ワルシャワで和平条件に対する感触を探り、その後、ドイツ、フランスを巡って中国の代表として和平協議への協力を懇願する予定と思われます。

各国政府に確認したところ、ポーランドもドイツもフランスも李特使の来訪予定を認め、「提案内容に非常に関心を持っている」とのコメントが寄せられました。

実は李特使の訪仏・訪独に先駆けて、外務大臣の秦剛氏が両国を訪問しており(他にはノルウェー)、この特使の派遣の受け入れに対する働きかけをしたそうです。

そしてこの李特使の外国訪問(調停ツアー)の最後にモスクワに立ち寄り、プーチン大統領に対して各国との協議・交渉内容を報告する予定になっているようです。

ここまでの日程や働きかけを見て浮かび上がってくるのが、【中国がこの和平外交の展開において目指している最大目的】です。

李特使、秦剛外相、そして王毅政治局員などを通じた働きかけによって、ロシアとウクライナの停戦を実現したいという目的はもちろんあるでしょうが、私は本当のところは、戦争の終結よりも、【和平スタイルの外交を通じてアメリカと欧州各国の分断を鮮明にすること】でないかと考えています。

実際に欧州各国の共通している関心は【早期のウクライナ和平】であり、【戦争の終結】であり、欧州各国は一刻も早い停戦を熱望しています。中国が仲介を申し出た際にも、明らかに冷ややかな米国政府とは対照的に、欧州各国は「真意を見極める必要がある」と前置きしつつも歓喜したと言われていますし、中国政府がウクライナ情勢で何か発言したり、行動したりするたびに大きく報じ、中国への警戒心を抱きつつも、中国による和平実現への期待を匂わせて一種の“ラコール”さえ送っているように思われます。

「中国は信用できない」としていた米政府やストルテンベルグNATO事務局長の反応とは異なり、中国との“和解”の道を探っているようにも見えます。そして5月8日から12日に行われた秦剛外相のノルウェー訪問も、実はストルテンベルグ事務局長の強気崩しとも言われており(彼は元首相ですが、すでに影響力は失っていると言われる)、欧米切り崩しに向けて綿密に分断工作が進められているようにも見えてきます。

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