中国にハメられた欧州、“仲間はずれ”の日本。G7広島サミット「共同声明」が炙り出したもの

 

アメリカが成功した自国軍需産業への利益誘導

その目的は叶えられたでしょうか?

G7とは関係ないかもしれませんが、日韓間の関係修復の恩恵を受けて(まあ、アメリカ政府的には自分たちが関係修復を後押ししたと主張するでしょうが)、北東アジア情勢に対して日米韓で臨むという協力関係を再建することには成功したと思われます。特に中国と北朝鮮という脅威に立ち向かい、かつシベリアサイドでもロシアと対峙するにあたり、日米韓で一枚岩の対応が出来るという“イメージ”はアメリカの威厳の回復という点のみならず、経済的な側面でもアメリカの国益に沿うこととなります。

それは軍備の再配置と更新による米軍需産業への利益です。対北朝鮮・対中国のためのミサイル防衛網、日韓の核兵器の配備を阻止する代わりに、アメリカが提供する核の傘の拡大適用に資する新たな設備の販売などを含みます。

さらにエリアを広げると、日米韓の半導体製造・供給網を、台湾を仲間に巻き込んでおくことによってより強固なものにし、中国に対抗するのみならず、欧州に対しても優位に立つという結果に導かれることになります。

サミットを含むG7閣僚級会合の結果を受けて、賛否両論存在しますが、アメリカはプレゼンスの回復と、経済的なdominationに向けての体制づくりの足掛かりができたように見えます。その序章が、近く米国で開催され、西村経済産業大臣が代表で参加するIPEFの閣僚級会合となるようです。

国内の債務問題は頭痛の種でしょうが、その協議を遅らせてまでG7サミットに参加した意義はあったのではないかと、個人的には感じています。

外交巧者の威厳を見せつけることには成功した英国

では他の国はどうでしょうか?

英国を見てみると、こちらも独自の立ち位置の確保に成功したかもしれません。Brexit以降、欧州の一員でありつつもEUの加盟国ではない特殊な立ち位置で、言わばしがらみから解き放たれた感がありますが、外交巧者の英国ならではの形で、全方位外交を実現させているように見えます。

アメリカとカナダに対してはtrans-Atlanticの協力関係を強めていますし、TPPへの参加に向けた動きやAUKUSへの参加などを通じてアジアへの再進出も進めています。また欧州各国ともメイ・ジョンソン政権下で冷めていた関係をスナク政権下で温めなおしているようにも見えます。フランスとの漁業争議はまだ残っているようですが、マクロン大統領との個人的なつながりを通じて、こちらにも落としどころを見つけようとしているようです。

また懸案のウクライナ情勢においても、アメリカと共に対ロハードライナーの姿勢を鮮明にし、F16の供与に消極的に見えたアメリカ政府に働きかけ、先にパイロットの訓練を持ち出すことで、このG7の場でF16をウクライナに供与することをバイデン大統領に認めさせました。

これによる経済的・軍事的な利益は英国に対しては少ないと思われますが、外交巧者の英国の威厳を十分に見せつけることには成功したと考えます。

とはいえ、もちろん軍事的な面でも積極化しており、射程250キロメートルを超えるミサイル・ストームシャドーをウクライナに実戦配備することで、ウクライナ支援の質を一気に高める戦略を取り、「対ウクライナ支援におけるアメリカ偏重」という非難をかわすことにも成功しています。

今回のG7においても、議長国日本を差し置くことは決してしないエレガントなアプローチの裏で、しっかりと欧州と米国・カナダ・日本をつなぐ橋渡し的な役割を果たしたと言われています。

英国も、米国同様、一時は国際情勢におけるプレゼンスと影響力の低下が懸念されましたが、スナク政権下でしっかりとその回復に成功しているように見えます。

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