健康診断でコレステロール値、特にLDL(悪玉)コレステロール値が高いと注意されたことはないでしょうか。コレステロール値に関しては、日本脂質栄養学会と日本動脈硬化学会の見解が正反対で、どちらを信じていいか医師でも戸惑う人がいるようです。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』では、糖質制限食の提唱者として知られる江部康二医師が、信頼度の高い研究で出された最新の調査結果を紹介。脂質栄養学会の見解「総コレステロール値やLDLコレステロール値は、高い方が日本では長生き」の方が正しいと結論付けています。
コレステロール値が高い方が長生き
コレステロールについては、浜六郎医師の「薬のやめ方」辞典(三五館、2017年)が参考になります。同書P85には、「コレステロールは気にしない」。P86、P87には、「コレステロール値が高い人の方が低い人よりも長生きであり、下げる必要はまったくありません」と明確に記載してあります。勿論、根拠はしっかりと示されています。
2016年6月に発表された信頼度の高い研究(☆)で、このことが証明されたのです。
(☆)Cardiovascular medicine Research
Lack of an association or an inverse association between low-density-lipoprotein cholesterol and mortality in the elderly: a systematic review | BMJ Open
この論文、1回や2回の調査をみて結論をだすのではなく、一定の条件を満たす研究を、できるだけ多く総当たりで集めて検討した「システマティックレビュー」ですので、エビデンスレベルは一番上です。以下、同書の87ページより引用です。
この研究は、60歳以上の人を対象にし、LDLコレステロールの値でわけて、その後の総死亡の危険度を報告した研究を総当たりして分析したものです。
2016年6月に出版された最新の調査結果です。この研究は「英国医師会雑誌」のオープンアクセス版(BMJ OPen)のサイトによれば、発行以来、5ヶ月間もっともよく読まれた記事であり続けたという、きわめて重要な論文です。
このシステマティックレビューの結論は、「コレステロール値が高い人の方が低い人よりも長生き」ということです。
「日本脂質栄養学会、コレステロールガイドライン策定委員会」監修の「長寿のためのコレステロールガイドライン2010年版」(中日出版社)が2010年9月に出版されました。2014年には、続「長寿のためのコレステロールガイドライン」が、刊行されました。
2007年改訂の日本動脈硬化学会のガイドラインでは、「LDLコレステロール140mg/dl未満」が目標数値です。その後も2023年現在まで、普通の病院ではLDLコレステロール140mg/dl以上は、高LDLコレステロール血症と診断されます。日本動脈硬化学会は、『総コレステロールやLDLコレステロールは、低ければ低いほどいい』という見解です。
一方、「脂質栄養学会、コレステロールガイドライン策定委員会」監修のガイドラインでは、「総コレステロール値あるいはLDLコレステロール値が高いと、日本では総死亡率が低下する」つまり、脂質栄養学会は、「総コレステロール値やLDLコレステロール値は、高い方が日本では長生き」としています。
2010年後半、日本脂質栄養学会と日本動脈硬化学会の間で、コレステロール論争が持ち上がったのは記憶に新しいところです。真っ向から対立する見解なので、患者さんはもとより、現場の医師も戸惑っていると思いますが、このシステマティックレビューにより、欧米でも日本でも、「コレステロール値が高い人の方が低い人よりも長生き」という結論が導かれると思います。
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