精神科病院での「身体拘束」問題。硬直した議論を進めるためには?

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7月7日、東京新聞の「こちら特報部」に掲載された日本精神科病院協会(日精協)会長のインタビューが大きな反響を呼んでいます。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で、生きづらさを抱えた人たちの支援に取り組む著者の引地達也さんは、記者による印象操作のような書き方が、患者の「身体拘束」問題に関して異なる意見を持つ人の対立を煽りかねないと指摘しつつも、硬直しているこの問題の議論が進むことに期待。病院協会側も社会で見ていくことについて、「60年社会は何も変わらない」と切り捨てるのではなく、専門医の立場でソーシャルワーカーたちと対話をしてほしいと訴えています。

乱暴の物言いからはじめる日本の精神医療の「対話」

日本精神科病院協会会長の山崎学氏が東京新聞のインタビューに応じ、その内容が大きな反響を呼んでいる。

「地域で見守る? 誰が見てんの? あんた、できんの? きれいごと言って、結局全部他人事なんだよ」

 

「医者になって60年、社会は何も変わんねえんだよ。みんな精神障害者に偏見もって、しょせんキチガイだって思ってんだよ、内心は」

歯に衣着せぬ物言いと、精神医療と社会の現状を喝破する表現に、反響は共鳴する人、忌避する人に分かれるようだ。東京新聞の記事は、山崎会長の存在を身体拘束や長期入院という問題と対峙させるような印象もあり、その掲載姿勢にも賛否の声が上がる。

インタビューの前提には、「世界で最も身体拘束が行われている日本の精神科病院」との書き出しがあるから、どうしても山崎会長がそれへの反論、となってしまったが、現状からよりよい精神医療に向けての議論は進めるべきであり、反論も賛成も含めてここから始める、という視点でこの記事をきっかけに対話を進めることはできないだろうか。

インタビューの内容は、過去20年で2倍増えた拘束件数について「増えた増えたって言うけれど、厚労省が発表しているのは数だけ。病名や性別、年齢も発表していないから、具体的にどういう疾患で拘束が増えたか何もわからないの」とし、拘束は精神保健福祉法に則った対応であり、安全確保や治療のために必要だと強調した。その上で「精神科病院より一般医療での拘束の方がはるかに多い。知らない? 厚労省の班研究で施設内拘束って6万件あるんだぜ。そっちの拘束をなんで騒がないの?」と指摘する。

記者の「病院ではなく、地域で見守る態勢に本腰を入れるべきだ」との質問には、冒頭のような発言、さらに「出してどうすんの? 地域でマンツーマンで診れるならいいが財源も人もいない。支えているのはいつもボランティアじゃねえか」と続く。国連の委員会が日本の精神科医療での強制入院に関する是正の勧告には「余計なお世話だよ」「(勧告は)重くないね全然。国連がそんなに権威のある機関だと思ってないもん」と意に介していない。

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