イージス・アショアの二の舞いか。敵基地攻撃ミサイル論の無理筋

 

拍手喝采を浴びた河野太郎氏を再び防衛大臣に

いまマイナンバーカードをめぐる相次ぐ不祥事で苦境に立っている河野太郎=デジタル担当大臣は、3年前には防衛大臣で、20年6月に秋田県と山口県に配備することになっていた「イージス・アショア」ミサイル計画を停止すると発表し、拍手喝采を浴びた。直接の理由は、ミサイルの発射を補助するブースターと呼ばれる重量約200kgの部品が本体から切り離された後、基地の外の民家のある地域に落下する危険があることが露見し、それを防ぐには別途2,000億円もの追加費用を米国に払って12年かけて改造しなければならないことが判明したためである。

が、事の本質はそこではなく、それまでは専ら海上自衛隊の艦載イージス・システムに頼ることになっていた北朝鮮のミサイル発射への対処に、陸上自衛隊も一枚加わりたいという思惑から、米ロッキード・マーチン社が構想中でまだ実物を確かめることも出来ないLMSSRという機種をカタログだけで選定し6,000億円超を支払おうとしていたことにある。

そもそも、海自のイージスを含めて日本のミサイル防衛システム(MD)は、何から何をどこでどう守るのかというコンセプトが不明なまま、米国から言われた通りに最新の兵器システムを買い入れて並べているだけで、国会も国民もマスコミも「北朝鮮が怖い」「中国も危ない」と煽り立てる米日政府の恐怖心理操作に絡め取られて、それを何とはなしにだらしなく容認してしまっている。

が、戦時ケースでは、何の前触れもなしに北朝鮮なり中国なりロシアなりがいきなり日本に核もしくは通常弾頭搭載のミサイルを撃ち込んでくることは100%あり得ず、ただ米国とそれらの国が交戦状態に入った際に真っ先に横田、横須賀、岩国、佐世保、那覇・嘉手納などの主要な在日米軍基地とその米軍の支援を担当する自衛隊基地が一斉集中攻撃に晒されることは目に見えていて、それには日本のMDは中途半端極まりなく役に立たない。

他方、平時ケースでは、今起きているのは北朝鮮のミサイル実験による発射物やその剥落部品などが誤って日本の周辺や領内に落下する危険があるということのみで、それには少なくともイージス・アショアを秋田と山口に配備することは特に意味がない。

ミサイルは今や陸自の生き残りのためのオモチャでしかないことを、河野大臣はあの時はっきり指摘すればよかったと思うけれども、イージス・アショアの一件の隠された本質はまさにそこにあった。

なぜこのことを今更持ち出すかと言えば、今回の岸田大軍拡――その目玉の「スタンドオフ・ミサイル」による「敵基地攻撃能力保有」という話は、イージス・アショアと同じ程度にいい加減な、しかし遥かに規模も金額も莫大な壮大なる与太話で、今回の予算措置1年延期をもっけの幸いとしてこれを見直そうという機運が生じるような予感がするからである。そうだ!河野をもう一度、防衛大臣に戻したらいいのではないか。

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