イージス・アショアの二の舞いか。敵基地攻撃ミサイル論の無理筋

 

スタンドオフ・ミサイル論の隠された狙い

岸田大軍拡が与太話である最大の理由は、「スタンドオフ・ミサイル」という用語の怪しさである。

防衛庁HPの「令和5年度予算の概要」(23年3月)と題したPDFを見ると、P.16の「スタンドオフ防衛能力」の項に「隊員の安全を可能な限り確保する観点から、相手の脅威圏外からできる限り遠方において阻止する能力を高め、抑止力を強化することが重要」、〔そのため〕「スタンドオフ・ミサイルの早期装備化及び運用能力の向上が必要」と記され、開発・導入する7種類のミサイルが列記され、それらを実戦で運用しているイメージ図「スタンドオフ・ミサイルによる侵攻部隊の阻止」が付されている(図1)。さらに次のP.17「統合防空ミサイル防衛能力」の項では「まず、ミサイル防衛システムを用いて、公海及び我が国の領域の上空で、我が国に向けて飛来するミサイルを迎撃する。その上で、弾道ミサイル等の攻撃を防ぐためにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、有効な反撃を加える能力(反撃能力)として、スタンドオフ防衛能力等を活用」と書かれている。

P.16のイメージ図を見ると、スタンドオフ・ミサイルは地上・艦上・空中から発射され、敵艦隊が発射したミサイルや魚雷を迎撃しているだけに見えるが、P.17の文言を見ると、それだけでなく、「その上で……相手の領域に……有効な反撃を加える」ために「スタンドオフ防衛能力等を活用」することになっている。この微妙な表現の「ずらし」がスタンドオフ・ミサイル論のミソで、敵の侵攻を防ぐために「隊員の安全を確保する」と称してスタンドオフ位置からでも発射できるミサイル能力が必要だと言って導入しながら、実は敵の領域を攻撃することの出来る長射程ミサイルを装備しようというところに隠された狙いがあることが、透けて見えている。

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