北米では山火事が
熱波の影響は、たとえばカナダでは“山火事”という現象として顕在化。アメリカ北東部では6月以降、山火事の煙による深刻な大気汚染に見舞われた。
煙の流出元はカナダ東部で広範囲におよんだ山火事であり、汚染は長期間続いた。専門家は、山火事は地球温暖化による異常気象が原因と指摘する(*4)。
カナダ当局は、高温や異常な乾燥などにより、例年の10倍強にあたる面積で火災が起きているとした。6月8日時点で429件の山火事が起き、そのうちの半数以上が“制御不能”であるという(*5)。
そのうちのおよそ3分の1が東部ケベック州で起きている。カナダでは、例年5~10月に西部を中心に山火事が頻発するものの、今回の被害は深刻性だ。
山火事の煙は国境を越えアメリカ北東部に流入、大気汚染が深刻に。米環境保健局(EPA)の調査によると、米東部のニューヨーク市やペンシルベニア州のフィラデルフィア、首都ワシントンの空気質が、「不健康」レベルとなった。
深刻な山火事の要因となっているのが異常気象であることは間違いない。カナダ政府の調査によると、今年4月時点でカナダ国内の10の州すべては異常な乾燥や干ばつに見舞われており、落雷などで森林火災が一気に広がった。
気候変動にともなる気温の上昇はさまざまな形で山火事を起こし、延焼を広げる乾燥した落ち葉やコケ類、枯死した植物はいったん火が付くと消えにくい。雨をともなわない雷を発生しやすくなる。
火災で発生した煙が上空で冷やされて雲が発生し、さらに雷雲が発達するという悪循環に陥る(*6)。また落ち葉がこすれ合った摩擦熱で火が付くことも。
このような北米などでの山火事の起こりやすい状態は、9月ごろまでつづくという。
暑さはメンタルヘルスにも影響をおよぼす
気候変動は、私たちのメンタルヘルスにも影響を与える。事実、異常気象を招く気候変動に対する強い不安が、南半球などの新興国の若者を中心に広がっている(*7)。
彼らは今後、21世紀後半にかけ気候変動の影響を実感する。
気候変動への不安は、心の病気として顕在化するリスクも。
電通総研は国際研究チームの論文などをもとに3月にまとめた11カ国の16~25歳を対象にした調査によると、気候変動の影響を「極度に心配している」「とても心配している」と答えた人に割合は、フィリピンで最多の84%、インドとブラジルでも67~68%と高水準だった。
この数字は、北半球の先進国であるアメリカとフィンランド(44~47%)や日本の16%を大幅に上回る数字だった。このことについて、電通総研の担当者は、
「南半球を中心とした途上国は(気候変動の)影響を受けやすい」(*8)
と指摘する。低緯度の途上国は、台風やハリケーンの通り道となり、堤防や灌漑施設も未整備なためだ。
ただ今後は、気候変動に対する心の不安は、世界各地で現れるだろう。最近、世界の若者の間で、「気候不安(エコ不安)」という言葉が登場した。
イギリスの森林保護団体ウッドランド・トラストが3月にまとめた調査では、イギリス国内で気候変動を「非常に心配している」と答えた人は16~24歳で31%と、50~64歳の23%や、65歳以上の18%よりも高い値を記録した(*9)。
あるいは、米ミネソタ大学などは2022年、ミネソタ州で約500人の精神科医やカウンセラーなどのメンタルヘルスの専門家を対象とした調査結果によると、専門家の多くが患者の病気の背景に気候変動が加わっている事例はあると考えていると指摘。
たとえば、抑うつ症状の原因に気候変動が関わっている患者を診察したことがあると回答した専門家は63%だった(*10)。
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