戦争は最終フェーズへ。プーチンが始めた「ウクライナ総攻撃」の準備

Russian,President,Vladimir,Putin.,Location,:,Russia,,Shoot,Date:,05.07.2023
 

ロシア軍に対する反転攻勢を本格化させるも、思ったような戦果を挙げられずにいるウクライナ。国際社会からのプーチン批判は高まるばかりですが、戦争の推移自体は「プーチンの思惑通り」との見方もあるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、プーチン大統領が思い描いているであろうウクライナ戦争のシナリオを解説。さらに「ワグネルの乱」の真相についても深掘りしています。

全てがプーチンの思い通り。進むウクライナの孤立化とグローバルサウスの欧米離れ

「プーチンは自分の思惑通りに戦いを進めている」

これはロシア・ウクライナという当事者のみならず、ウクライナを支援するNATO諸国も共有する有力な分析内容です。

昨年2月24日にウクライナ全土への侵攻を始めてからもうすぐ1年半が経ちますが、当初予定していたよりもはるかに長く戦い、かつ多くのロシア兵の被害を出していますが、負けることなく、じわりじわりとウクライナの首を絞め、その背後にいるNATO加盟国間の対応の温度差を拡大しています。

まずアメリカを見てみると、対応に苦慮している様子が覗えます。

アメリカ政府内の分析によると、ウクライナが直面している戦況はかなり厳しく、NATOからの重火器の支援が増大されているにもかかわらず、この1か月で反転攻勢において予定されていた40%から45%ほどの成果しか挙げられておらず、実際には徐々にロシア軍に押される傾向が鮮明になってきているようです。

もしかしたらアメリカ軍“お得意”の軍事支援増大のための誇張かもしれませんが、「徐々にロシア軍に押され始めている」という見解は、どうも正確な見方のようです。

これまでNATO諸国内でも抜きんでるレベルでウクライナの戦いを後押しし、膨大な支援を行ってきたアメリカ政府と軍ですが、予想以上に長引く戦況と、当初の予定を遥かに上回る軍事支援は、アメリカ軍の全世界的な防衛網と自国の国家安全保障上の装備不足を引き起こし始めており、これ以上、気前の良い支援へのコミットメントはできないというのが大方の見解です。

そこで「本国にも兵器がないからしかたない」とまで大統領に発言させる形でクラスター爆弾をウクライナに供与することになったわけですが、これは実際には、アメリカ政府も批准しているオスロ条約違反であり、NATO諸国間での摩擦も引き起こす結果になっています。

例えば、最も近しいはずの英国政府でさえ、スナク首相自身がアメリカによるクラスター爆弾の供与に異を唱えて反対していますし、ルールを非常に重んじるドイツも「クラスター爆弾の供与と使用は、我々の支援における一線を超えるもの」と強く反発し、先日のNATO首脳会談時にも大きくもめる対象になったようです。

そして今週、NATO加盟国も懸念を表明していたウクライナ軍によるクラスター爆弾の使用が明らかになり、欧州各国の対米批判が顕在化しています。

これこそが実はプーチン大統領が目論んでいた内容だと思われます。NATO内での分裂が加速すると同時に、アメリカ政府が国際情勢において用いる自分勝手なダブルスタンダードを顕在化することによって対米批判の輪が拡大してきています。

これでNATOの欧州加盟国はアメリカの立場と、これまで以上に距離を置き始めていますし、NATO首脳会議時に思い切りNATO寄りになったと噂されたトルコも非難を強めています。

特に「ロシアもウクライナもオスロ条約締約国ではないので、クラスター爆弾をウクライナに提供することも、ロシア国内での使用も国際法違反にはならない」という苦し紛れの言い訳は、同盟国を呆れさせるだけでなく、支援の拡大を狙っていたグローバルサウスの国々のアメリカ離れと非難をさらに加速する結果になっています。

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