戦争は最終フェーズへ。プーチンが始めた「ウクライナ総攻撃」の準備

 

「途上国の欧米離れ」の加速化に成功しつつあるプーチン

前者については、危機管理の観点からは正しい動きだと考えますが、これが何を引き起こしているかというと、ウクライナに隣接する中東欧諸国5か国におけるウクライナ産穀物の滞留による国内市場の混乱です。今週に入って5か国が連名でウクライナ産穀物の引き受け停止を宣言し、純粋に通過する場合を除き、引き受けない方針を提示しています。

隣接する5か国の農業保護の必要性が一番の理由とされていますが、この措置により陸路でdivertするルートが断たれ、ウクライナの農産物輸出による収入が減るだけでなく、欧州各国向けの穀物の流通も遮断されることになり、欧州で食糧危機が引き起こされる恐れが懸念され始めています。

「ロシアによる非協力的な姿勢は、途上国における食糧危機を引き起こす」として、ロシアを非難してきた欧州も、実際には陸路でのdivertで流通してきていたウクライナの穀物をほぼすべて欧州が独占してきたことが明るみに出てくることで、グローバルサウスの国々からの非難が強まってきています。

そこに狙いを定めたかのように、ロシア政府はグローバルサウスの国々に対するロシア産の穀物の無償提供を大々的に発表して、一気にグローバルサウスの国々を味方に引き込むだけでなく、欧米各国の矛盾を浮かび上がらせることで、途上国の欧米離れを加速させる後押しになっています。

アメリカ政府は国連安全保障理事会の場でグリーンフィールド大使を通じて「ロシアによる措置は人類に対する挑戦」と非難させて批判をそらそうとしてみたものの、今回の情報戦は不発に終わったようです。

これもまたプーチン大統領の思惑通りに進んでいると見ることが出来ます。

暴かれ始めた“ウクライナの嘘”

そして情報戦と言えば、戦況に関する情報戦も次第にロシア側に有利に働き始めています。

これまでウクライナ側が戦略的に“ロシアの嘘”を暴き、世界に訴えかけ、国際世論を味方につけてきましたが、クリミア大橋の爆破が実はウクライナ軍によるものだったと認めたことを皮切りに「悪いのはロシアで、ウクライナは被害者」というイメージがじわりじわりとはがれ始めてきています。

2014年以降、ウクライナ政府が行ってきた東部ロシア人地域への迫害の実情が暴かれ始め、一時期は英雄と奉られたアゾフ連隊は実は欧米によってテロリスト集団認定されていたことが思い出され始めたことで、次第に“ウクライナの嘘”も表出し始めています。

そしてそれは以前の“ウクライナのミサイルがポーランド領内に着弾した事件”を思い出させ、「これはロシアによる民主主義への挑戦で、第3次世界大戦の始まりだ」と大騒ぎし、世界から顰蹙を買ったゼレンスキー大統領の姿をまた思い出させることに繋がってきています。

またNATO、特にアメリカがウクライナに対してタブーとしてきた“ロシア領内への越境攻撃へのアメリカ産武器の使用”が公然と行われたことや、すでにウクライナが欧米産兵器・弾薬のブラックマーケットになってきていることが明るみに出だしたことで、情報戦における綻びも明らかになってきています。

これは欧米各国の政府・議会の目を覚まし、ウクライナ支援に対する躊躇へとつながり始めていると言われています。

同時にウクライナが行ったと思われるモスクワへの無人ドローン攻撃やクラスター爆弾の実戦使用などが、ロシア側のレッドラインを超え、NATO各国を戦争に引きずり込む理由を与えかねないと感じることで、ウクライナの継戦のための支援を控える動きが出始めています。

もちろんどのような理由があったとしてもロシアによる侵攻は正当化できるものではないのは変わりませんが、じわりじわりと対ロシアシンパシーが強まってきているのはとても気になるところです。

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