やはりプーチンの演出か。「ワグネルの乱」の真相
そして情報戦の極みは「ワグネルの乱の正体」です。
プリコジン氏の動静は様々な憶測がありつつも、はっきりしませんし、消息不明のスロビキン司令官の動静も不明ですが、どうもロシアによるウクライナ総攻撃の準備を進めているようです。
ルカシェンコ大統領が情報を一転二転と変え、ワグネルの実際の動きを分からなくしていますが、主力はベラルーシ入りし、北方からのキーウ攻撃を計画していると言われています。
乱から数日後にはモスクワでプーチン大統領とプリコジン氏が会談し、その際、プーチン大統領から「ゼレンスキー大統領の首を取ってこい」と発破をかけられて、無罪放免ともとれる形で泳がされていることから見て、プリコジン氏とワグネルに偽のクーデーターを引き起こさせ、ロシア国内とプーチン大統領の権力基盤の揺るぎを印象付けるように演出し、欧米諸国の目をそちらに向けさせている間に、作戦を次の段階に移すことに成功していると分析することが出来るようになってきました。
ルカシェンコ大統領がグルになって「どうもワグネルはポーランドを攻撃する」と発言していますが、これはNATO加盟国であり、ウクライナの隣国でもあるポーランドをターゲットにすることで、実際にNATOはどう動くのか、そして非政府組織で軍事会社という位置づけのワグネルによる仕業であった場合にもNATO憲章第5条による報復措置は発動されるのかを探る“情報戦”がロシア・ベラルーシ合同作戦として展開されている模様です。
ここで肝となるのは、ポーランドへの圧力と脅威の投射を行っているのが、正規のロシア軍ではなく、あくまでも非政府組織のワグネルであるという点で、NATO側に真正面からの反撃・報復の口実を与えにくい状況を作り出し、NATOの存在意義への挑戦を行っているという点です。
NATOが反撃すれば、過剰防衛行為として糾弾し、反撃せず、ウクライナ同様、ポーランドも見捨てる形になったら、ロシアに隣接するバルト三国などはNATOへの信頼が失墜し、NATOの分裂が引き起こされる可能性が高まり、その後はドミノ倒しのように崩れることになるかもしれません。
これももしプーチン大統領の計画に含まれているのだとしたら、とても恐ろしいですが、妙に納得しませんか?
戦術核兵器使用の可能性に言及して脅していますが、実際に使用することなく、総崩れにつなげることが出来るかもしれませんし、NATO加盟国間での不信感と、特に中東欧諸国に根強くある“西欧諸国は我々を見下している”という感情に火をつけ、NATOの東進を反転させることにつながるかもしれません。
もしそうであれば、プーチン大統領の戦略がぴたりとはまることになりますが、果たしてどうでしょうか?
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ